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社員ブログ

  • 【作品添削講座】図書カードプレゼントキャンペーン実施中!

    2012-08-13

    公募ガイド9月号 文学賞特集「すべての小説にミステリーを」連動企画!
    作品添削講座「公募対策1回コース ミステリー」(講師:野崎六助)を受講いただいた方に、
    最大2,000円分の図書カードをプレゼントいたします!
    【内容】受講料18,000円以下の方には、図書カード1,000円分をプレゼント
         受講料22,000円以上の方には、図書カード2,000円分をプレゼント
    【対象】公募対策1回コース「ミステリー」を受講いただいた方
    【期間】9月8日のお申し込みまで
    *お問い合わせ*
    作品添削講座事務局 担当:澤田
    TEL:03-5312-1600(平日9:30~17:30)
    メールでのお問い合わせはこちら
    作品添削講座では、小説をはじめ、童話、占い、作詞、ネーミングなど、
    さまざまな講座を設けております。
    ご興味のある方は、ぜひ一度、ホームページをご覧ください。
    http://tensaku.shop-pro.jp/
    作品添削講座事務局(澤)

  • 「シナリオ創作セミナー」を開催します

    公募ガイド社では、「シナリオ創作セミナー」を開催いたします。 講師はシナリオスクールの講師河合雅子先生。シナリオ創作のポイントを講義いただきます。また、事前に募集する作品の講評アドバイスも行います。初めての方も大歓迎。皆様のご参加をお待ちしております。
    日時  2012年10月20日(土) 13:30~16:40(13:00開場)
    会場  東京都港区北青山3-15-14
         シナリオ・センター大教室(地下鉄表参道駅A1、B2出口徒歩約5分)
    参加費 5000円
    主催  株式会社公募ガイド社
    協力  シナリオ・センター
    お申し込み、詳細はこちら

  • 【作品添削講座】新井リュウジ先生・藤咲あゆな先生の新刊発売中!

    作品添削講座「公募対策1回コース・ライトノベル」の講師・新井リュウジ先生
    「基礎養成6回コース・ストーリーメーカー養成講座」の講師・藤咲あゆな先生が編集した
    『ちょーコワ! 最凶怪談』(集英社みらい文庫/税別600円)が発売中!
    saikyou1

    【あらすじ】
    エレベーターでの戦慄体験、水底に沈んだ町、占い好きの少女をおそう最悪の結末、
    コンビニを訪れる不気味な訪問者、はりつけにされた少年の怨念……ほか、
    身の毛もよだつ11編の恐怖ストーリー!
    作品添削講座事務局(澤)

  • 第8回創作トレーニング実習採用者の方

    2012-07-24

    第8回創作トレーニング実習で採用させていただいた大畠久美子さま、採用の記念品の送り先を編集部までお知らせください。公募ガイド編集部(黒田)TEL 03-5312-1600 mail ten@koubo.co.jp

  • 創作トレーニング実習 第25回発表

    2012-06-17

    創作トレーニング実習 第25回発表
    第25回(最終回)の課題は、「間を省略しても、前後関係からそこで何があったのかが分かるように複数のシーンを並べてみましょう」でした。
    シーンを飛ばして間を省略し、あとで分からせていますね。
    ただ、くれぐれも飛ばしすぎには気をつけてください。
    ■第25回採用作
                                                                比嘉隆太郎
    「飴ください」
     見れば、客はまだ年端もいかねえ娘だ。
    「おや、親分」
     後ろからおっ母らしき女が声をかけた。同じ裏長屋の千代だった。
     ということは? 改めて娘を見ると千代の娘おりんだ。
    「なんだ、お参りかい?」
     俺は浅草寺の近くで飴屋をしている。
    「これから花見に」千代は言い、「でもなんで親分が飴なんか」
    「俺の本業はテキヤさ」岡っ引きは副業だ。
    「そう。親分が暇なら世は泰平ってことね」
    「ちげえねえ」
     俺は笑ったが、千代は不安げに空を見ていた。
    「どうかしたかい?」
    「どうも降りそうで」
     俺も見上げる。空が真っ黒だ。
    「これは来るぜ」
     俺はさっさと商品をかたづける。おりんが「飴」と言ったが、それどころじゃねえ。でっけえ雨粒が二つ三つ落ちたと思ったら、たちまち滝のような夕立になった。周りのテキヤも大騒ぎで店じまいをしている。俺は飴を並べていた台をかかえ、軒先を探した。
     翌朝、朝飯を食ったあと、表の井戸に行き、房楊枝で歯を磨いていると、千代がやってきた。
    「おう、千代。昨日はとんだことだったな」
     千代は首を振り、「かえってご心配をおかけして」と下を向いた。
    「あの、これ」
     千代が何かを手渡した。手のひらを広げると銭だった。
    「銭なんかいいよ」
    「でも、飴だけじゃなく、かんざしまで土産にいただいて。おりん、大喜びでしたわ」
    「あれぐれえの雨ではぐれ、どしゃぶりの中を帰らせたお詫びだ、安いくれえだよ」
     俺は飴代を千代に返した。「それでおりんにだんごでも食わせてやんな」
                                                                    (了)

  • 創作トレーニング実習 第24回発表

    2012-06-16

    創作トレーニング実習 第24回発表
    第24回の課題は、「複数のシーンを並べることで、(こういうことが言いたい)とは書かずに、それを行間で表現してください」でした。
    言いたいことが書かれていませんので、いろいろ解釈できます。
    ■第24回採用作
                                                                   乃理子
     幼稚園バスに乗って出掛けていく息子に手を振る。同じように見送っている団地のママさんたちが、「美津代さん、ちょっとお茶しない?」と誘ってくる。
    「ごめん、私は……」
     全部言い終わらないうちに、「あ、仕事だよね」と突き放される。
     自宅のあるマンションの四階に戻り、化粧もそこそこに家を出た。電車で三十分、都心の雑居ビルに入り、二畳ほどの小部屋で待機する。安いソファに座り、雑誌でも読もうかとページをめくったところで店から電話があった。
    「薫子ちゃん? ご指名。北口のノースホテル四〇三号室へお願い」
    「はい、わかりました」
     時計を見るとまだ十時。こんな時間から女買う?
     四〇三号室に入ると、商用で東京に出てきたという中年の男がいた。デブで脂ぎっててしつこそう。吐き気をこらえて、「シャワーどうぞ」全裸になって男を迎える。
     息子は絶対国立の付属に入れる。そのためにはなんだってする。
     私は午前中だけパートをしている。仕事はデリヘルだ。
     最後の客に延長され、待機部屋を出たのは一時過ぎだった。ここから家までドアドアで一時間弱。今日は幼稚園バスが二時に来るからぎりぎり間に合うかどうか。いつもは帰ってからもシャワーを浴び、念入りに“痕跡”を消すが、今日はその時間がない。
     マンションが近づいたとき、幼稚園バスが追い抜いていった。慌ててバスを追いかける。バスが止まり、息子が降りてきた。
    「ママ、お仕事の帰り?」
     いつもはマンションのエントランスにいるのに、道路のほうから来たからそう思ったらしい。
    「そうよ」
     でも職種は言わない。言ってもわからないし、言うことでもない。
     私は息子の手を取り、エレベーターホールに向かう。すれ違いざま、どこかの母親が言った。
    「あら、いい香り」
     私は素知らぬ顔で階段に向かう。
    「今日は走っていこう!」息子と走り出す。
     どこかの主婦はまだ犬のように匂いを嗅いでいる。その声が追いかけてくる。
    「入浴剤かしら」
                                                                    (了)

  • 創作トレーニング実習 第23回発表

    2012-06-15

    創作トレーニング実習 第23回発表
    第23回の課題は、「浦島太郎は最後に玉手箱を開けておじいさんになってしまいますが、この伏線となる説明または場面を書いてください」でした。
    なるほど、未来の分まで先に使ってしまったのですね。
    ■第23回採用作
                                                                 小山正太
     太郎は竜宮城でフィーバーしていた。毎晩、人魚たちと踊ったり、騒いだり。それだけのことで、時間が経つのも忘れるくらい楽しいのが不思議だった。もっと不思議なのはこれだけ動きまわっているに、疲れが溜まらないことだ。
     その日も太郎は一緒に踊った人魚をナンパしていた。
    「僕もそうだけど、君も疲れ知らずだね」
    「当たり前じゃないですか。竜宮城は未来のバイタリティとエネルギーを今使うことができるんですよ」
    「面白いこと言うなぁ。じゃあここを離れたら疲れがどっと押し寄せてくるわけだ」
    「疲れなんて封じ込めておけばいいんですよ、例の……」
     人魚は太郎が二本足であることに気づき、押し黙った。
    「地上からのゲストの方につまらない話をしてスミマセン。疲れ知らずならもっと踊りましょ」
    「若いね」
    「まだ200歳ですから」
    「えっ?」
     自分の聞き違いだろうと、太郎は気にせず踊りはじめた。
                                                                    (了)

  • 創作トレーニング実習 第22回発表

    2012-06-14

    創作トレーニング実習 第22回発表
    第22回の課題は、「お好きなマンガや小説の設定やキャラクターを借り、新たに別の掌編を書いてみましょう」でした。
    採用作は、続編というよりはパロディのようでしたね。
    ■第22回採用作
     春の縁側
                                                               モロボシダン
     散歩中のシーボーズが家の前を通る。
     戦いのないのんびりした春の日、私は弟と縁側で渋茶をすすっていた。
     そこに孫娘がやってきて、隣にいる弟を見て、おや?という顔をしたあと、「こんにちは」と小さく言った。
    「覚えていないか、セブンのおじいさんだよ」
     ふあっ、ふあっ、ふあっ。弟が笑った。「会ったのはまだ赤ちゃんのときだ」
    「あの人?」
     孫娘は室内の壁にある額を指差した。そこでは私たち五人兄弟が肩を組んで写っている。
    「そうそう、まん中がセブンおじいさんだ」
    「じゃあ、昔は正義の味方だったんだ」
     弟は「まあね」とはにかむ。目尻に皺が寄る。
     孫娘が奥に行ってしまうと、一転、弟の愚痴が始まった。
    「あの子、写真を見て、俺だとすぐに分かったな」
    「おまえだけ見た目が違うからな」写真を撮ったとき、タロウはまだ生まれていなかった。
    「おかげでよく橋の下で拾ってきたって言われたよ」
     弟は渋い顔をした。
    「いいじゃないか、カッコいいんだから。名前だってカッコいい。僕なんか、おまえらがセブン、エース、タロウ、レオって言われているから、その流れでマンだぜ」
     帰って来たウルトラマンには愛称がなく、後年、苦肉の策でジャックと名付けられたことは敢えて言わなかった。
    「いや、やはり兄弟は上のほうが得だよ」
     弟は腕を組み、「うむ」と唸って話を続けた。
    「兄貴がスペシウム光線を流行らせたから、ウルトラ兄弟はみんなスペシウム光線をやると思われてるんだ。俺は十字型じゃなくてL字型、名前もエメリウム光線なのに」
    「そうだな」ひとつ頷く。「おまえの必殺技はエメリウム光線、ウルトラビーム、アイスラッガーだよな」
     そこで私は長年の疑問を思い出した。
    「アイスラッガーって、アイ・スラッガーなの? それともアイス・ラッガー?」
    「アイ・スラッガーだよ」
    「へえ」私は驚き、「でも、なんで?」
    「実はおれ、生まれたときは『ウルトラ・アイ』だったんだよ。ところが、父ちゃんが戸籍を出すとき、勝手に『ウルトラセブン』にしちゃって、その名残だよ」
    「なるほど」疑問はもうひとつあった。「で、頭の上のアイスラッガーを投げて、それがブーメランみたいに戻ってくるけど、自分の頭に刺さったことはないの?」
    「ないよ。あったら死んでるでしょ」
     弟はピシャリと言い、今度は逆に質問してきた。
    「兄貴って猫背だよね。なんで?」
    「それは僕に聞かれても困る」
    「肩は凝らない?」
    「凝るよ。でも、ときどきシーボーズやジャミラが揉んでくれるんだ」
    「いいなあ。おれの相手は変な宇宙人ばかりだから、肩揉みなんてことは……」
    「カプセル怪獣がいるじゃないか。忠実なしもべが」
    「だめだめ」弟は盛大に手を振る。「ウィンダムは力ないし、ミクラスは力任せに叩くだけだし。使えないんだよ」
    「いっそ、僕のスペシウム光線で電気治療してやろうか」
    「あほか、肩砕けるわ」
     弟がおどけてそう言ったとき、孫娘が箱を持って縁側に来た。
    「おじいちゃんにプレゼント」
     私は箱を受け取り、包装を解く。中身はサッカーボール大の卵だった。
    「これは?」
    「ゼットンの卵。大事に育てて、大人になったらバトルしてね」
    「そうだな、この怪獣墓場じゃ、粋のいい敵も自分で育てねばなあ」
     平和すぎるのもやれやれだ。
    「でも、強く育てすぎて、二度やられないようにね」
     ふあっ、ふあっ、ふあっ。弟に憎まれ口を言われ、私は頭をかく。
    「そのときはまたゾフィー兄さんに助けてもらうよ」
     かいた後頭部の塗装が剥がれ、ぼろぼろと落ちた。
                                                                    (了)

  • 創作トレーニング実習 第21回発表

    2012-06-13

    創作トレーニング実習 第21回発表
    第21回の課題は、「昔話『桃太郎』のストーリーはそのままに、これを小説にしてください。設定や人物名などは換えてかまいません」でした。
    「実の親子ではない」「子は親を助け、ひいては周囲の者も助ける」「援助する者が三人いる」というあたりだけ踏襲すれば、内容は「桃太郎」とまったく違ってかまいません。
    ■第21回採用作
     村を守る
                                                                比嘉隆太郎
    「だめだ、どれも中身がない」
     兵六は稲の束を放り投げ、居合の一撃を放った。二つになった稲穂がひらひらと舞い降りてきた。今年の夏は雨が降らず、稲穂の中はどれも空だった。それでも年貢は毎年決まった量を求められた。これでは村人が苦しむのは目に見えている。夜逃げする者もあろう。兵六は独りごちた。
    「そもそも、取れ高に関わらず年貢を集めるほうが悪い」
     兵六の言葉に、養父の吉次郎が「これ、兵六」とたしなめた。
    「いえ、江戸の市村様のことを言っているのではございませぬ。父上を追い出し、代官の地位についた阿久沢のことを言ったのです」
     ここ上州秋月村は、旗本市村家の知行地である。石高百五十。しかし、遠く江戸の市村家が自らの手で年貢を集めるわけではなく、実務は代官に任されている。
     三年前まで、吉次郎はその職にあった。ところが、急に任を解かれ、この三年は阿久沢が代官をしている。伝え聞いたところでは、毎年百五十石を保証すると言って市村家の奥方に取り入り、主の知らないところで阿久沢を後任としたとのことだった。
    「だとしても、いかんともしようがあるまい」
     吉次郎は黙して腕を組むばかりだった。
     翌日、兵六は吉次郎に申し出た。
    「この不作では死人が出ましょう。村の若い者を連れて猪狩りに行ってまいります。半月は帰りませんので、留守をお願い致します」
     家の土間に立つと、養母が寄ってきて、「無事を祈ります」と言って石を打った。
     二十日ほどして、兵六は帰ってきた。後ろには兵六が雇った長吉、兼三、円之助があり、それぞれ猪を一頭かついでいる。
    「これで少しは村も潤う」
     安堵の表情を浮かべる吉次郎に兵六は耳元でささやいた。
    「若い衆に猪を獲らせている間、実は私は江戸に行って参りました」
     吉次郎が眉根を寄せた。「何用あって江戸へ」
    「市村様にお会いし、村のこと、包み隠さず申し上げました」
    「それで、なんと?」
     兵六は懐から和紙を取り出した。吉次郎の顔色が変わった。上意と書かれている。
    「まさか、そなたがやるのか」
     兵六は、長吉、兼三、円之助を連れ、橋のたもとで阿久沢を待っていた。時は六つを過ぎ、あたりは夕闇に包まれている。
     やがて、橋の向こうに阿久沢の姿が見えた。酔っているのか、機嫌よさそうにのんびり歩いている。後ろには用心棒らしき男が五、六人いた。
     阿久沢が橋のこちら側まで来た。
    「阿久沢だな」
    「いかにも。貴殿は?」
    「吉次郎が長男、兵六」
     兵六は懐から和紙を取り出した。「上意である」
    「笑わせるな」
     阿久沢の声が終わらないうちに、和紙もろとも刀で払われた。みるみるうちに和紙が真っ赤になっていく。左手の小指が半分ちぎれ、ぶらぶらしていた。
    「やれ」
     阿久沢の声に配下の男たちが反応した。そこに長吉、兼三、円之助が助太刀に入り、橋の上では総勢十人近い男たちが小競り合いを始めている。兵六は欄干にもたれ、片膝をついて左手首を押さえていた。
     阿久沢が歩み寄ってきた。
    「こざかしい。もう終わりだ」
     上段に構えた阿久沢の剣が頭上から振り降ろされる。その剣が兵六を真っ二つにするかと思われた刹那、兵六の剣が阿久沢の脛を払い、返す刀で阿久沢を袈裟掛けに斬った。
     阿久沢はどうと倒れる。阿久沢の用心棒たちの動きが止まった。
     ちりぢりに闇に消えていく用心棒たちを見送りながら、兵六はつぶやいた。
    「これで父上に代官の座が戻った。村人も救われる」
                                                                    (了)

  • 創作トレーニング実習 第20回発表

    2012-06-12

    創作トレーニング実習 第20回発表
    第20回の課題は、「お手元にあるストーリーマンガを、そのまま小説にしてみましょう。完成したら元のマンガと比べてみましょう」でした。
    元になったマンガが手元にないのでなんとも言えませんが、目の前の絵を文字で伝えようとしていることは分かりました。
    夏目の視点で語ると、より小説っぽくなったかもしれませんね。
    ■第20回採用作
     夏目友人帳
                                                                 村上晶子
     三人の少年たちは、水が干上がったダム底を見ていた。
     少年たちのかたわらには三台の自転車が置いてある。
     夏休みのある一日を利用してこの山奥まで散歩をしに来たのだ。釣りでもしようと道具も持ってきていたが、この干上がりようでは釣れそうにもない。
    「すごいな、見ろ夏目。沈んでた村が姿を出してる」
     体格のよい少年が、細い体つきの少年――夏目に声を掛けた。
    「ああ、北本。鳥居や祠まで見えるな」
    「みんな水の底に沈んでたんだなー。すごいよな」
     北本と夏目の会話に西村が加わる。
     二十年前まで人々の日常があったはずのダム底は、今では古びた道路や腐りかけの家々があるだけだ。だが……夏目の視界には。
    「あ、人がいる。降りられるのかな、このダム」
    「え?」
    「ほら、あの家の窓のところで動いて……」
    「よせよ夏目」
     あんなところに人がいるはずがないだろう――。西村の夏の汗が冷や汗に変わった顔を見てしまってから、ようやく自分の見たものが『人ではない何か』であったことに気がついた。そうだ、それが要因で今まで人に遠ざけられてきたんだったと感じた瞬間、身体に重さを感じ、目の前が暗くなった。
     次に夏目が瞳に映したものは、自室の天井裏で、布団に横になっていた。いつの間にか自宅に帰っていたらしい。北本と西村が送り届けてくれたのだろう。家人にはそう重病ではないと判断されたようで冷たいおしぼりが額にのっていた。
    「目を回したって、夏目? 軟弱な奴め」
     夏目の自室にある招き猫が話しかける。
    「うるさいぞ。ニャンコ先生!」
     夏目が招き猫のからかいに応じる。この招き猫は、『ニャンコ先生』と夏目に呼ばれている。ニャンコ先生は自称用心棒としてこの家に住みついてしまった『妖怪』である。夏目は小さい頃から時々、変なものを見た。他の人には見えないらしいそれらは、このニャンコ先生やダム底の人影と同じく、妖怪と呼ばれるものの類であったのだろう。
    「ごめんください」
     窓の外から声がする。夏目が起き上がり外を見ると、闇の中、四匹の異形のものたちが待っていた。先頭の妖怪が話し始める。
    「夏目殿ですね? 我々は村と共に水底で眠っておりましたが、また水が張る前に名を返していただきたく参りました」
    「水底? お前たちあの干上がったダム底の村に住んでいたのか?」
    「はい。水が張ると簡単には地上に出られません」
     だから、干上がっている隙に名前を返してもらって再び水底で静かに眠りたいのだと、先頭の妖怪は言った。夏目の亡くなった祖母は、使役するため多くの妖怪の名を紙に書かせ集め『友人帳』という契約書の束を作った。孫である夏目貴志がその『友人帳』を遺品として継いで以来、今夜のように名の返還を求めて訪れる者への対応をしている。名を奪われた者は命を握られたも同じだとされている。だから夏目は、極力名の返還に応じようと努めている。
    「夏目殿、名前をお返しいただき、ありがとうございました」
     そう言い残して四匹の妖怪たちは夏目の家を去っていった。名を返す行為自体は簡単である。名が書かれた紙を友人帳の中から探し出し、その紙をかんでふっと息を吐くだけでその妖怪の名前は解放される。しかしこの行為には多くの弊害がある。体力をごっそりと奪われたり、妖怪の思念に引き寄せられたりしてしまうのだ。
    「疲れた……」
     夏目は再びぱたりと倒れた。
    「馬鹿者。素直に返しよって。……む?」
     ニャンコ先生が鼻をひくひくさせる。
    「妖怪の匂いがお前からぷんぷんするぞ」
     それはさっき四匹も妖怪が訪れてきていたからだろうと言い返したくなったが、ニャンコ先生がそれを制した。
    「お前にとりついている」
    「あのときか」
    「心当たりがあるのか? 私のものに手を出すとは。よし、私が祓ってやろう」
     そう言ってニャンコ先生は夏目に体当たりした。影が、夏目から離れる。
                                                                    (了)
    (緑川ゆき作『夏目友人帳 一巻』白泉社 2012年 第四話 155ページ~161ページ)