創作トレーニング実習 第22回発表
創作トレーニング実習 第22回発表
第22回の課題は、「お好きなマンガや小説の設定やキャラクターを借り、新たに別の掌編を書いてみましょう」でした。
採用作は、続編というよりはパロディのようでしたね。
■第22回採用作
春の縁側
モロボシダン
散歩中のシーボーズが家の前を通る。
戦いのないのんびりした春の日、私は弟と縁側で渋茶をすすっていた。
そこに孫娘がやってきて、隣にいる弟を見て、おや?という顔をしたあと、「こんにちは」と小さく言った。
「覚えていないか、セブンのおじいさんだよ」
ふあっ、ふあっ、ふあっ。弟が笑った。「会ったのはまだ赤ちゃんのときだ」
「あの人?」
孫娘は室内の壁にある額を指差した。そこでは私たち五人兄弟が肩を組んで写っている。
「そうそう、まん中がセブンおじいさんだ」
「じゃあ、昔は正義の味方だったんだ」
弟は「まあね」とはにかむ。目尻に皺が寄る。
孫娘が奥に行ってしまうと、一転、弟の愚痴が始まった。
「あの子、写真を見て、俺だとすぐに分かったな」
「おまえだけ見た目が違うからな」写真を撮ったとき、タロウはまだ生まれていなかった。
「おかげでよく橋の下で拾ってきたって言われたよ」
弟は渋い顔をした。
「いいじゃないか、カッコいいんだから。名前だってカッコいい。僕なんか、おまえらがセブン、エース、タロウ、レオって言われているから、その流れでマンだぜ」
帰って来たウルトラマンには愛称がなく、後年、苦肉の策でジャックと名付けられたことは敢えて言わなかった。
「いや、やはり兄弟は上のほうが得だよ」
弟は腕を組み、「うむ」と唸って話を続けた。
「兄貴がスペシウム光線を流行らせたから、ウルトラ兄弟はみんなスペシウム光線をやると思われてるんだ。俺は十字型じゃなくてL字型、名前もエメリウム光線なのに」
「そうだな」ひとつ頷く。「おまえの必殺技はエメリウム光線、ウルトラビーム、アイスラッガーだよな」
そこで私は長年の疑問を思い出した。
「アイスラッガーって、アイ・スラッガーなの? それともアイス・ラッガー?」
「アイ・スラッガーだよ」
「へえ」私は驚き、「でも、なんで?」
「実はおれ、生まれたときは『ウルトラ・アイ』だったんだよ。ところが、父ちゃんが戸籍を出すとき、勝手に『ウルトラセブン』にしちゃって、その名残だよ」
「なるほど」疑問はもうひとつあった。「で、頭の上のアイスラッガーを投げて、それがブーメランみたいに戻ってくるけど、自分の頭に刺さったことはないの?」
「ないよ。あったら死んでるでしょ」
弟はピシャリと言い、今度は逆に質問してきた。
「兄貴って猫背だよね。なんで?」
「それは僕に聞かれても困る」
「肩は凝らない?」
「凝るよ。でも、ときどきシーボーズやジャミラが揉んでくれるんだ」
「いいなあ。おれの相手は変な宇宙人ばかりだから、肩揉みなんてことは……」
「カプセル怪獣がいるじゃないか。忠実なしもべが」
「だめだめ」弟は盛大に手を振る。「ウィンダムは力ないし、ミクラスは力任せに叩くだけだし。使えないんだよ」
「いっそ、僕のスペシウム光線で電気治療してやろうか」
「あほか、肩砕けるわ」
弟がおどけてそう言ったとき、孫娘が箱を持って縁側に来た。
「おじいちゃんにプレゼント」
私は箱を受け取り、包装を解く。中身はサッカーボール大の卵だった。
「これは?」
「ゼットンの卵。大事に育てて、大人になったらバトルしてね」
「そうだな、この怪獣墓場じゃ、粋のいい敵も自分で育てねばなあ」
平和すぎるのもやれやれだ。
「でも、強く育てすぎて、二度やられないようにね」
ふあっ、ふあっ、ふあっ。弟に憎まれ口を言われ、私は頭をかく。
「そのときはまたゾフィー兄さんに助けてもらうよ」
かいた後頭部の塗装が剥がれ、ぼろぼろと落ちた。
(了)



