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創作トレーニング実習 第24回発表

2012-06-16

創作トレーニング実習 第24回発表
第24回の課題は、「複数のシーンを並べることで、(こういうことが言いたい)とは書かずに、それを行間で表現してください」でした。
言いたいことが書かれていませんので、いろいろ解釈できます。
■第24回採用作
                                                               乃理子
 幼稚園バスに乗って出掛けていく息子に手を振る。同じように見送っている団地のママさんたちが、「美津代さん、ちょっとお茶しない?」と誘ってくる。
「ごめん、私は……」
 全部言い終わらないうちに、「あ、仕事だよね」と突き放される。
 自宅のあるマンションの四階に戻り、化粧もそこそこに家を出た。電車で三十分、都心の雑居ビルに入り、二畳ほどの小部屋で待機する。安いソファに座り、雑誌でも読もうかとページをめくったところで店から電話があった。
「薫子ちゃん? ご指名。北口のノースホテル四〇三号室へお願い」
「はい、わかりました」
 時計を見るとまだ十時。こんな時間から女買う?
 四〇三号室に入ると、商用で東京に出てきたという中年の男がいた。デブで脂ぎっててしつこそう。吐き気をこらえて、「シャワーどうぞ」全裸になって男を迎える。
 息子は絶対国立の付属に入れる。そのためにはなんだってする。
 私は午前中だけパートをしている。仕事はデリヘルだ。
 最後の客に延長され、待機部屋を出たのは一時過ぎだった。ここから家までドアドアで一時間弱。今日は幼稚園バスが二時に来るからぎりぎり間に合うかどうか。いつもは帰ってからもシャワーを浴び、念入りに“痕跡”を消すが、今日はその時間がない。
 マンションが近づいたとき、幼稚園バスが追い抜いていった。慌ててバスを追いかける。バスが止まり、息子が降りてきた。
「ママ、お仕事の帰り?」
 いつもはマンションのエントランスにいるのに、道路のほうから来たからそう思ったらしい。
「そうよ」
 でも職種は言わない。言ってもわからないし、言うことでもない。
 私は息子の手を取り、エレベーターホールに向かう。すれ違いざま、どこかの母親が言った。
「あら、いい香り」
 私は素知らぬ顔で階段に向かう。
「今日は走っていこう!」息子と走り出す。
 どこかの主婦はまだ犬のように匂いを嗅いでいる。その声が追いかけてくる。
「入浴剤かしら」
                                                                (了)