創作トレーニング実習 第25回発表
創作トレーニング実習 第25回発表
第25回(最終回)の課題は、「間を省略しても、前後関係からそこで何があったのかが分かるように複数のシーンを並べてみましょう」でした。
シーンを飛ばして間を省略し、あとで分からせていますね。
ただ、くれぐれも飛ばしすぎには気をつけてください。
■第25回採用作
比嘉隆太郎
「飴ください」
見れば、客はまだ年端もいかねえ娘だ。
「おや、親分」
後ろからおっ母らしき女が声をかけた。同じ裏長屋の千代だった。
ということは? 改めて娘を見ると千代の娘おりんだ。
「なんだ、お参りかい?」
俺は浅草寺の近くで飴屋をしている。
「これから花見に」千代は言い、「でもなんで親分が飴なんか」
「俺の本業はテキヤさ」岡っ引きは副業だ。
「そう。親分が暇なら世は泰平ってことね」
「ちげえねえ」
俺は笑ったが、千代は不安げに空を見ていた。
「どうかしたかい?」
「どうも降りそうで」
俺も見上げる。空が真っ黒だ。
「これは来るぜ」
俺はさっさと商品をかたづける。おりんが「飴」と言ったが、それどころじゃねえ。でっけえ雨粒が二つ三つ落ちたと思ったら、たちまち滝のような夕立になった。周りのテキヤも大騒ぎで店じまいをしている。俺は飴を並べていた台をかかえ、軒先を探した。
翌朝、朝飯を食ったあと、表の井戸に行き、房楊枝で歯を磨いていると、千代がやってきた。
「おう、千代。昨日はとんだことだったな」
千代は首を振り、「かえってご心配をおかけして」と下を向いた。
「あの、これ」
千代が何かを手渡した。手のひらを広げると銭だった。
「銭なんかいいよ」
「でも、飴だけじゃなく、かんざしまで土産にいただいて。おりん、大喜びでしたわ」
「あれぐれえの雨ではぐれ、どしゃぶりの中を帰らせたお詫びだ、安いくれえだよ」
俺は飴代を千代に返した。「それでおりんにだんごでも食わせてやんな」
(了)



