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  • 大江戸線で起きた奇跡

    公募ガイド社に所属しておきながら、生まれて初めて『文學界』を購入しました。お恥ずかしい…(生まれてきてスミマセン)。

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    芥川賞候補になっている鈴木涼美さんの『ギフテッド』と、年森瑛さんの『N/A』(文學界新人賞を受賞)を読みたかったからなのですが、通勤途中の大江戸線でちょっとした驚きがありました。なんと!いつも乗り込むドア付近に立つおじさまとおばさまが、文庫本(ゆえにおそらく小説)を読んでたんですね。ジブンも入れると、密集状態の3人が揃いも揃って紙で小説を読んでいる、と。

    これって今の時代、めっちゃレアじゃないですかね?さらには半歩離れたところに立つ青年も、単行本で実用書を読んでいました。なに?20世紀にタイムスリップしたの?は言い過ぎかもしれませんが。

  • 阿刀田高の「TO-BE小説工房」最終回に寄せて駄文供養をしてみむとてするなり

    次回発行の2021年11月号(10/8売)をもって、第79回で月刊公募ガイドの連載が終了した阿刀田高さんの「TO-BE小説工房」。毎回応募いただいていた方も少なくなかっただけに、個人的にもとても残念に思いました。

    大学を卒業して以降ほとんど小説を読んでこなかった私ですが、6月下旬にひょんなことから目覚めて読み始め。これも何かの縁と、自分でも小説を書いてみようと思い立ってしまいました。

    なぜ?と言われてもジブンでもよく分からず、「書いてみたいと思ってしまったから書いただけ」ではありますが。阿刀田さん、長きにわたり連載いただきありがとうございました。


    [第79回課題]骨
    「棘と痺れ」

    オフィスで残業し、資料の最終チェックに集中していると左手に痺れがあった。気のせいかとも思ったが、人差し指と親指を中心にじわじわと広がってくる感覚もある。広告代理店に勤務している私は、大きなプレゼンを明日に控えているが、一晩寝れば何とかなるかもしれない、とひとまず問題を先送りにすることにした。

    翌朝になっても痺れはおさまるどころかより確実にまとわりついていた。朝一番の商談をつつがなく済ませると、上司に症状を説明し、駅近くの病院に駆け込んだ。

    「変形性脊椎症が進行して、頚椎椎間板ヘルニアになってますね」。レントゲン写真を見ながら、医師がそう告げた。頸椎は七つの骨で構成されているのだが、上から四つ目が変形して突起状に成長してしまっているらしい。その棘が神経を圧迫し、左手の痺れを起こしているとのことだった。ビタミンB12を主成分とする薬が処方されたが、それでも「痺れが小さくなることはあっても、基本的にはなくならないだろう」という見立てに、私は絶望した。現状程度の痺れであれば、いまの業務に支障はないが、趣味で描いているイラストには致命的だった。

    診断から一か月ほどたった土曜、イラストレーター仲間の飲み会に参加した。向かいに座る凧助氏は世田谷ニートを兼業しているが、こう見えて五万人以上のフォロワーがいたりするから油断ならない。

    「そうは言っても痺れてるのは左手だけなんでしょ? 利き手じゃないし、描けるんじゃないの。ほら、水木しげるだって戦争で片腕をなくしたけど作品を発表し続けたよね」

    もしかしたらわざと楽天的に放言することで、和ませようとしてくれているのかもしれないが、そういえば彼とは去年の夏に深大寺の鬼太郎茶屋に行ったのだった。

    「そんな偉人と比べないでほしい。最初は自分でも大丈夫かなと思ったんだけど、それがそう単純でもなくてさ。そりゃあ描けるか描けないかだけでいえば描けるよ。でも、全然いい感じにならないんだよね」

    完全には納得していない怪訝な顔をしながら、いがぐり頭を掻き掻き、凧助氏はジョッキでメロンクリームソーダを飲んでいる。彼は酒が飲めない性質なのでしょうがないのだが、いいからいったんそのジョッキを脇に置いてくれ。

    「ぼくだってキミの絵は好きなんだから、そこは何とかしてほしいけどね。先週の個展はいつも通りのクオリティーだったと思うけど」

    いやいやあれは、ほとんどが痺れる前に描いてたやつなわけさ。

    「見に来た子に手を出したりとかしなかったの? わざわざ来てくれた時点で好かれてるのは間違いないわけだからさ。いけるでしょ」

    私にはそんなチャンスは発生したように見えなかったが。なるほどね、とうなずきながら彼の好物である手羽先のラスト一本を奪ったところで、本日はお開きの声が上がった。

    その後、SNSの更新が滞りがちな私のアカウントは日々じわじわとフォロワー数を減らしていた。それは自分のライフゲージがみるみる減っていく様を可視化されているようでもあったが、フォローしてくれている人たちはイラストを見るのが目的なのだ。更新がされなくなれば、フォローを解除されてしまっても仕方ない。もしこの数字がゼロになってしまったら、自分は死んでしまうのでは。そんな気持ちにもなったが、いっこうにイラストが描ける日は訪れず、ともなって界隈の飲み会にもお声がかからなくなっていった。痺れは左手だけでなく、左半身全体にも及んでいるかのような錯覚さえ感じていた。

    大きなプロジェクトがやっとひと区切りした会社帰り、久々に氏と連絡を取ろうと思いSNSのメッセージ画面を開いた。

    「凧助さんが昨日上げてたイラスト、めっちゃ伸びてますね。さすがです。まとめサイトにも載っていて、フォロワー数また四百人くらい増えたんじゃないですか?」

    「こちらは相変わらずその後も描けておらず、最近ではモチベ自体もなくなってます」

    「思えば仕事以外、プライベートの時間はイラストを描くことと、絵師の皆さんとのコミュニケーションすることの他には何もなかったように思います」

     ここまで一息に三通も送ってしまったことに気づき我に返った。第四頸椎から伸びた棘は左手をとっくに通り越し、イラスト自体やSNSを通じた活動にも作用することで、現実の人間関係にも痺れという形で現れていた。

    夜中まで待ったが通知はない。もう一通だけ送ろう。

    「もう一年くらい新しいイラストは描けてませんが、過去のデータはあるので、それでまたお茶の水のショップにバッジ作りに行きませんか?」

    メッセージの返信が来ることはなかった。

  • 【1冊目】「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著(角川書店 2006年11月)

    公募ガイド社に所属していながら、というかそもそも出版社の末席を汚していながら、大学を卒業してからほとんど「小説」というジャンルの本を読んでいないんです。お恥ずかしい。たぶん両手で数えるほどしか読んでいないのでは。

    とはいえ本や雑誌は大好きでめっちゃ本屋さんは訪れますし、自宅の壁は可能な限り本棚にしておりぱんぱんです。ただ単に「小説」を読む習慣がなかっただけというか。

    さすがにそんな出版人はどうなんだ?と思い、ちょっとずつ挑戦していこうと記録を取っていくことにしました。ブログにすることで、心理的な強制力も少しは働くでしょうし。

    そんなわけでまず手に取ったのがこちらです。

    [caption id="attachment_21800" align="aligncenter" width="600"]夜は短し歩けよ乙女(森見登美彦)夜は短し歩けよ乙女(森見登美彦)[/caption]

    ストーリーやキャラクターは非常に魅力的。でも最初は文体が…


    2017年にはアニメ映画にもなっており、主役の「先輩」は星野源さんが演じられたという事でも話題になりました。累計130万部も売れている、大ベストセラーですね。

    京都を舞台に、うだつの上がらない「先輩」と、彼が思いを寄せる「黒髪の乙女」を中心に春夏秋冬の流れを描いた青春もので、これを読んで「大学に行くのなら京都のどこかの学校を目指したい!」と強く思った高校生は多いのではないでしょうか。

    とはいえ小説を読みなれていない私からすると、登場人物やストーリーは非常に魅力的であるものの、この作品(あるいは森見さん)独特の文体が気になってしまい、慣れるまで時間がかかりました。第1章の「春」を読み終える時点ではかなり読みなれてきましたが、ファンにとってはむしろこの文体こそ快感なのだろうな、とも。

    どの章、どの季節の人気が高いのでしょうか。おそらく「春」なのかな?と予想していますが、個人的には「秋」がもっとも魅力的でした。大学祭を舞台にした目まぐるしい展開はとても愉快で、(アニメ映画は未見なものの)脳内で映像化するのが非常に容易でした。

    「黒髪の乙女」は友人がいない?


    語り部の1人である「黒髪の乙女」は天真爛漫・天衣無縫にして、ありていに言えば不思議ちゃん然としたヒロインなのだけれど、不思議なほどその友人関係が描かれない点がなぜだろう?と感じた。もちろんストーリーが進行するにつれ、登場人物と仲良くなっていくのだが、設定としての学内の友人というのが一切描かれないのである。

    天然の不思議ちゃんキャラなので学部で女友達がいないという描写?とも思ったが勘ぐりすぎだろうか。分かるかたがいらっしゃいましたら教えていただけますと幸甚です。(映画版や漫画版を読めば、そういう友人関係も描かれてたりするのだろうか?)

    「偽電気ブラン」を飲んでみたい


    春にあたる1章では、架空のアルコール飲料「電気ブラン」が出てくるのですが、これが非常に魅力的に描かれているため「ぜひ一度飲んでみたい」と感じること請け合い。

    偽電気ブランを初めて口にした時の感動をいかに表すべきでしょう。偽電気ブランは甘くも無く辛くもありません。想像していたような、舌の上に稲妻が走るようなものでもありません。それはただ芳醇な香りを持った無味の飲み物と言うべき物です。本来味と香りは根を同じくする物かと思っておりましたが、このお酒に限ってはそうではないのです。口に含むたびに花が咲き、それは何ら余計な味を残さずにお腹の中へ滑ってゆき、小さな温かみに変わります。それが実に可愛らしく、まるでお腹の中が花畑になっていくようなのです。飲んでいるうちにお腹の底から幸せになってくるのです。…ああ、いいなあ、いいなあ。こんな風にずうっと飲んでいたいなあ。

    どんなお酒なんだ!!!森見ワールドを飾りたてる小道具は、本当にこういう世界があるんじゃあないか?と思わせる説得力の一つとなって作品の魅力になってますよね。作中に登場するバーのモデルになった店では飲めるとか。京都に旅する日が来たら行くしかない。

    ヨーロッパ企画さんによる舞台化も!


    京都発祥の人気劇団『ヨーロッパ企画』が舞台化し、東京と大阪で上演されます。東京は明日が千秋楽!大阪ではこの週末で開演されますので、森見ワールドを活字だけでなく肌で感じるチャンスです。

    ヨーロッパ企画さんは、以前に「続・時をかける少女」を観劇し、さすがにめっちゃ面白い!という貴重な体験をさせてもらったため、無条件で信頼しています。

    「続・時をかける少女」の舞台(演劇)を観にいきました
    https://www.koubo.co.jp/editor/?p=14623

    いや、無条件ではないな。脚本と演出が上田さんのものは間違いない、という信頼をしている劇団です。今回『夜は短し歩けよ乙女』の初日を見に行ったのですが、それはそれは「おもちろい」体験となったのは言うまでもありません。前述のアニメ映画は氏の脚本との事なので、これも信頼して観てみよう、と思う次第です。


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