【1冊目】「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著(角川書店 2006年11月)
公募ガイド社に所属していながら、というかそもそも出版社の末席を汚していながら、大学を卒業してからほとんど「小説」というジャンルの本を読んでいないんです。お恥ずかしい。たぶん両手で数えるほどしか読んでいないのでは。
とはいえ本や雑誌は大好きでめっちゃ本屋さんは訪れますし、自宅の壁は可能な限り本棚にしておりぱんぱんです。ただ単に「小説」を読む習慣がなかっただけというか。
さすがにそんな出版人はどうなんだ?と思い、ちょっとずつ挑戦していこうと記録を取っていくことにしました。ブログにすることで、心理的な強制力も少しは働くでしょうし。
そんなわけでまず手に取ったのがこちらです。
ストーリーやキャラクターは非常に魅力的。でも最初は文体が…
2017年にはアニメ映画にもなっており、主役の「先輩」は星野源さんが演じられたという事でも話題になりました。累計130万部も売れている、大ベストセラーですね。
京都を舞台に、うだつの上がらない「先輩」と、彼が思いを寄せる「黒髪の乙女」を中心に春夏秋冬の流れを描いた青春もので、これを読んで「大学に行くのなら京都のどこかの学校を目指したい!」と強く思った高校生は多いのではないでしょうか。
とはいえ小説を読みなれていない私からすると、登場人物やストーリーは非常に魅力的であるものの、この作品(あるいは森見さん)独特の文体が気になってしまい、慣れるまで時間がかかりました。第1章の「春」を読み終える時点ではかなり読みなれてきましたが、ファンにとってはむしろこの文体こそ快感なのだろうな、とも。
どの章、どの季節の人気が高いのでしょうか。おそらく「春」なのかな?と予想していますが、個人的には「秋」がもっとも魅力的でした。大学祭を舞台にした目まぐるしい展開はとても愉快で、(アニメ映画は未見なものの)脳内で映像化するのが非常に容易でした。
「黒髪の乙女」は友人がいない?
語り部の1人である「黒髪の乙女」は天真爛漫・天衣無縫にして、ありていに言えば不思議ちゃん然としたヒロインなのだけれど、不思議なほどその友人関係が描かれない点がなぜだろう?と感じた。もちろんストーリーが進行するにつれ、登場人物と仲良くなっていくのだが、設定としての学内の友人というのが一切描かれないのである。
天然の不思議ちゃんキャラなので学部で女友達がいないという描写?とも思ったが勘ぐりすぎだろうか。分かるかたがいらっしゃいましたら教えていただけますと幸甚です。(映画版や漫画版を読めば、そういう友人関係も描かれてたりするのだろうか?)
「偽電気ブラン」を飲んでみたい
春にあたる1章では、架空のアルコール飲料「電気ブラン」が出てくるのですが、これが非常に魅力的に描かれているため「ぜひ一度飲んでみたい」と感じること請け合い。
偽電気ブランを初めて口にした時の感動をいかに表すべきでしょう。偽電気ブランは甘くも無く辛くもありません。想像していたような、舌の上に稲妻が走るようなものでもありません。それはただ芳醇な香りを持った無味の飲み物と言うべき物です。本来味と香りは根を同じくする物かと思っておりましたが、このお酒に限ってはそうではないのです。口に含むたびに花が咲き、それは何ら余計な味を残さずにお腹の中へ滑ってゆき、小さな温かみに変わります。それが実に可愛らしく、まるでお腹の中が花畑になっていくようなのです。飲んでいるうちにお腹の底から幸せになってくるのです。…ああ、いいなあ、いいなあ。こんな風にずうっと飲んでいたいなあ。
どんなお酒なんだ!!!森見ワールドを飾りたてる小道具は、本当にこういう世界があるんじゃあないか?と思わせる説得力の一つとなって作品の魅力になってますよね。作中に登場するバーのモデルになった店では飲めるとか。京都に旅する日が来たら行くしかない。
ヨーロッパ企画さんによる舞台化も!
京都発祥の人気劇団『ヨーロッパ企画』が舞台化し、東京と大阪で上演されます。東京は明日が千秋楽!大阪ではこの週末で開演されますので、森見ワールドを活字だけでなく肌で感じるチャンスです。
ヨーロッパ企画さんは、以前に「続・時をかける少女」を観劇し、さすがにめっちゃ面白い!という貴重な体験をさせてもらったため、無条件で信頼しています。
「続・時をかける少女」の舞台(演劇)を観にいきました
https://www.koubo.co.jp/editor/?p=14623
いや、無条件ではないな。脚本と演出が上田さんのものは間違いない、という信頼をしている劇団です。今回『夜は短し歩けよ乙女』の初日を見に行ったのですが、それはそれは「おもちろい」体験となったのは言うまでもありません。前述のアニメ映画は氏の脚本との事なので、これも信頼して観てみよう、と思う次第です。