ナイン・ストーリーズ
最近、むかし面白いと思った小説やら映画を改めて見直しています。
その中でも腰が抜けるほど素晴らしかったのが、サリンジャーというアメリカの小説家の『ナイン・ストーリーズ』という短編集です。サリンジャーは『ライ麦畑でつかまえて』の著者としても有名ですね。
タイトル通り九つの物語からなる作品なのですが、一作目からちょっともうこれは「短編小説」の完成形じゃないかと思えるくらいの出来で、まあ古典なのだからクオリティに関しては当たり前なのかもしれないのですが、いやあ、もうね、言葉が出ない。
どれもかなりコンパクトな物語で、第一話のシーンといえば新婚らしい奥さんがバカンス先で実の母親と電話しているのと、その夫が海辺でたまたま出会った子供と喋っている場面のほぼ二つだけ。ただ、その会話が抜群に洒脱で活き活きとしていて、話題が脈絡なく移り変わっていく感じがすごくゾワゾワして面白い。
たとえば娘の心配をしている中で、突如として最近買ったコートの話題になったりする。お互いが相手の話をあまりまともに聞いていない雰囲気なのですが、ただ、その「噛み合わなさ」が現代文学的なナンセンスに陥ることなく、きっちりと現実的なラインに収まっていて、そのバランス感覚が天才的。
で、それだけだと単に「会話が面白い」小説ということになると思うんですが、それだけでなく、どの作品にも会話やエピソードの中に「戦争の記憶」がチラッと見える瞬間があってすごいんです。
いやあね、みんなトラウマを抱えているんですよ。抱えているんですが、それがね、たとえば他人の悪口とかに現れるんですよ。「私にはあんな辛いことがあって」とかは言わずに、「あの人は最近変だよね」みたいな噂話をしていて、その中にフワッと時代の記憶みたいなものがほの見える感じ。これがね、まあ、ほんと絶妙なんです。
とまあ、ちょっと記憶だけでもやっとした感想を書いてしまったのですが、誰にとっても面白い小説だと思うので、ぜひ読んでみてください。短くて読みやすいのもおすすめポイントです。



