野田秀樹の見えない足跡、傾奇て歌舞伎て。
こんにちは。こんばんは。
睡眠中もダウンジャケット・ぽかぽか靴下を着用でおなじみ。
寒がりライターのユミです。
春夏秋冬、エアコンの効いた屋内にいるのも色々な意味で勿体ない。
そう思い、ひさびさに舞台を観てきました。
演目は、野田秀樹さん作・演出の『足跡姫』。
現在の歌舞伎が生まれた時代。
歌舞伎の始祖とも言われる出雲阿国(いずものおくに)の血統にある踊り手役を宮沢りえさん、その弟を妻夫木聡さんが演じています。
実は私は高校生の時に野田さんの戯曲を読んで以来の野田秀樹ファン。
その影響で、20代の頃にうっかり劇団を作ってしまったほど。
そんな憧れの野田さんの舞台には、今も足を運ぶようにしています。
ちなみに今回の『足跡姫』。
野田さんの親友で、歌舞伎界のカリスマでもあった故・中村勘三郎さんへのオマージュ、と銘打たれていました。
そんな故人への想いと同時に、本作は
「舞台という一回性の表現に携わること」
「それを生業にすること」
にまつわる野田さんの切実なる想いが込められていたように思います。
肉体を使った表現は、再現できない・後に残らないという宿命と、水物であるがゆえに儚く美しい、という両方をはらんだ芸術です。
記憶に残るじゃないか。
心に残るじゃないか。
そんな風にきれいに言いくるめても、やがてすべては滅びます。
記憶も心も演じ手も私たちの肉体だって、共に消えてはかなくなるのが世の掟。
あとに残るのは、記録だけ。
野田秀樹、という名前だけ。
それを想うと、何と因果なものに心奪われてしまったのかと、虚しさが兆すこともあるでしょう。
けれど、それでも肉体が滅びた後にきっとこの世に何かが残る。
見えるものよりもずっと確かな手触り。
聞こえるものよりも遥かにクリアな感覚。
そんな確信と自分よりも早くに逝った仲間への祈りで満ちた『足跡姫』。
もしかしたら、この作品は野田さん自身の遺書なのではないか。
そんな考えがふとよぎり。
生きて、やがて消えていく定めにある自分もまた、劇場の片隅でひどく泣けてくるのでした。
(そういえば蜷川幸雄さんも昨年お亡くなりなったばかり。骨太な後継者の登場が待ち遠しい限りです)
ユミ