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社員ブログ

言葉処 其の7「秋雨の降る」

2007-10-16

春の菜種梅雨に対し、秋の梅雨を秋霖と言うそうで、ここ数週間は雨が多かったが、雨は降り方や降る季節によっていろいろな言い方があっておもしろい。
小糠雨は糠の粉末のような霧雨で、細雨とも言う。もう少し本降りになると地雨となり、もっと降ると大雨、豪雨、雷雨、篠突く雨となる。急に降る雨はにわか雨、通り雨、夕立、肘傘雨などと言い、降り方に強弱があると村雨になる。


春は春雨、新緑の季節は緑雨、五月雨は旧暦の五月に降る雨だ。秋は秋雨、立冬から小雪の間に降る雨は液雨、時雨は初冬にぱらぱらと降る。雪の前の凍った雨は凍雨だ。
心情を映せば涙雨、慈雨といった言い方もあり、ほかにも狐の嫁入り(天気雨)、淫雨(長雨)、酸性雨と例を出せばきりがない。


雨ほど種類はないが、粉雪、牡丹雪、みぞれ、日本晴れ、五月晴れ、花曇りなど日本語には天候に関する言葉が多く、小説や歌詞にも多く登場する。吉行淳之介の芥川賞受賞作『驟雨』は村雨に同じ。谷崎潤一郎の『細雪』は粉雪、佳山明生の演歌『氷雨』は初冬の冷たい雨だが、夏に降るひょうやあられの意もある。浜田省吾の『Indian summer』は日本語で言うなら小春日和のことで冬の暖かい日。森山直太朗の『風花』は空から降る雪でなく、春先に山から飛んでくる雪だ。


英語ではRain、Shower、Cats and Dogs、Squall、Thunderstorm……あとはよく知らない。熱帯地方のどこかの言語では雨を意味する言葉がひとつしかないそうで、天候を表す言葉の数は気候の変化に比例する。中国語では雨はやはり雨と書き、春雨は粉絲または粉条と書くそうだ。と思ったら、この春雨は乾麺の春雨だった。新国劇は『月形半平太』の台本を中国語にする際、春雨を粉絲と訳してしまったら、きっとセリフはこうなるだろう。「春雨じゃ、食べて参ろう」。(黒)