言葉処 其の5「マッチする」
2007-10-02
ある年配の方が書いた文章の中に、「私の足は幅広でなかなかマッチする靴がない」という文章があった。これを読んだとき、不覚にも一瞬「マッチするってどんな意味だっけ」と思ってしまった。今も「タイトルマッチ」や「マッチング」という言い方は残っているが、洋服のサイズなどが「ぴったり合う」と言う場合、今は「マッチする」とは言わず「フィットする」と言う。
「マッチする」と言えば、1982年発売のニッサンマーチは、マッチこと近藤真彦をCMキャラクターに起用し、「マッチのマーチは、君の街にマッチする」のキャッチフレーズで売っていた。この当時はまだ「マッチする」のほうが一般的だったということだろう。しかし、1990年代以降、急速に「フィット」が幅を利かせる。
大和言葉は極端に動詞が少なく、体に合う、気が合う、計算が合う、話が合う、目が合う、採算に合う、答えが合う、似合う、リズムに合う……みんな「合う」だ。だから、意味を限定したい場合、漢語を使って、適合、適正、合致、調整、順応、該当、正解、調和と言ったり、外国語を使ってMATCH、FIT、ADJUSTと言ったりする。
《新しい言葉が生まれると意味のすみ分けが起きる》と言ったのはソシュールだったか。漢字を含む外来語渡来以来、「合う」の意味は様々に細分化されてきたが、一方、大和言葉はこれにオノマトペで対抗する。ぴったり、ぴったし、ぴたり、ドンピシャ。日本語に擬音が多いのは、動詞が少ないからだそうだ。(黒)



