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中山道を行く 第8週

編集部の黒田です。
今回は、「中山道を行く」第8週をおおくりします。
第8週は、軽井沢宿から沓掛宿、追分宿、小田井宿を経由し、岩村田宿まで行った。

軽井沢の先に、御代田という町がある。
ここには高校のとき、学生村に来たことがあった。学生村は暑い夏を避け、学生たちが勉強のためにこもるという民宿。
私はクラスの友人六名ほどと行ったのだが、なかには一人で来ている受験生もいて、A君は歯学部を目指しているという超エリート。
高校もA君の県内では断トツトップの進学校だった。

彼は虚勢を張っているのか、マウントをとりたいのか、ちょっとぎすぎすしている。
「一人で来るなんてすごいね、勇気あるよ」と言うと、
「受験生だから周りはみんな敵。クラスメートも敵。友達なんかいない」
「知り合いにS高校出身の子がいるけど、同じ市内でしょ?」
「あの高校、バカ高校だよ。なんのために存在しているのか、意味不明」
我々のこともどこか下に見ていており、ちょっと付き合いづらいなあって感じ。

学生村では基本的には勉強三昧だったが、まあ、たまには息抜きもする。
そん折、誰かが「近くにウィスキー工場がある」と言い、見学に行くことになった。今はなき三楽オーシャンだ。
見学後、なんと「試飲をどうぞ」と言われた。
(私は飲めたが、ビールすら飲んだことのない人もいた)
「ええと、水割りとかコークハイとかではだめですか」
誰かがおそるおそる聞く。高級ウィスキーを割るなんて、今ならありえない。
「とんでもない。ウィスキーを味わうなら、常温のストレートに限ります」
案の定、断固拒否という感じで言われてしまった。

まあ、ショットグラス一杯ぐらい平気かと二種類、試飲した。味なんか全然わかからない。ひたすら食道と胃が熱かっただけだが、当然というか、やはりハイになってしまい、学生村に帰ったあとも勉強そっちのけで雑談に花が咲いた。
「俺、物理、全然わからん。参考書を読んでもちんぷんかんぷん」
誰かがとぼやくと、別の誰かが、
「あーだめだめ、A社の参考書は使いにくいよ。俺のB社のを貸すよ」
すると、また別の誰かが、
「いや、絶対C社のほうがいいって。これ、有名な先生が書いたらしい」
なぜか参考書の推薦合戦になった。
「じゃ、帰ったら本屋さんに行ってみるよ」
「いや、俺は物理では受験しないから、しばらく貸すよ」
「本当に? 恩に着る。合格したら牛丼おごるよ」
「生卵付きな」

A君はその会話を唖然としながら聞いていた。
「おまえらバカか。受験生同士はライバルなんだぞ。いい参考書は隠せ。教えてどうする」
しかし、我々は部活が団体競技だったこともあり、受験という競技にチームでエントリーしている感覚だった。
だから、「いいじゃないの、みんなで落ちれば」と聞く耳を持たなかった。
団体戦は「FOR THE TEEM」の精神がないと、勝つ試合にも勝てないのよ。

このA君もだんだん打ち解けてきて、勉強の合間にバドミントンをしたり、浅間山麓を原チャリでかっ飛んだり、UNOをやったり、酒飲んだり。
あと、A君は一人だけいた女の子のことを好きになり、住所とか聞いていた。青春っ!

一週間近く滞在した最終日、彼がぼそっと言った。
「おまえらと同じ高校に行っていたらよかったなあ」
彼もこの一週間を楽しいと思っていたようだった。「受験生だから周りはみんな敵」と息巻いていたのにね。
そのときなぜか「勝った」と思った。