創作トレーニング実習 第17回発表
創作トレーニング実習 第17回発表
第17回の課題は、「アフリカにザンジバルという島があります。
その島の様子がありありと分かるように描写してください」でした。
ここでは、現実のザンジバル島とはどんなところかは二の次です。
読んだ人が、「なるほど、そういうところか」と想像できればOKです。
採用作は、情景描写は弱かったですが、話はまとまっていました。
■第17回採用作
渡辺まゆみ
飛行機から一歩踏み出した瞬間、私は黄色い風に包まれた。砂漠地帯に来るのは、生まれて初めての経験だった。鼻炎体質の私には、かなりつらい状況だ。日本から持ってきたマスクも一枚だけでは意味をもたず、二枚重ねて息苦しさと戦いながら空港の待合ロビーへと向かった。
空港といっても、ほとんど屋外といった感じ。空港名を表示するためだけに設置されたような粗末な屋根があるだけ。入国審査のカウンターも税関もすべて黄色い砂をかぶっている。入国審査のやりとりをしているほんの短い間マスクをはずしたばかりに、私はくしゃみが止まらなくなってしまった。
はっくしょん!
この国で発した初めての言葉がこれだ。もともと低かったテンションが下がっていく。
(現地集合!)
見慣れた筆跡のメモと航空券が送られてきたのは先月のこと。二年以上の遠距離恋愛中、彼から届いた三通目の手紙だった。強引さに呆れて、メールで文句を言おうにも、電波の届かないところにいる彼に伝える手段がない。
期限切れが近かったパスポートを引っ張りだして、仕事の段取りやら、準備やらであっという間に、出国の日を迎えた。その間、彼からの連絡は一度もなかった。
「こっち、こっち!」
懐かしい声が聞こえた。止まらないくしゃみをハンカチで包み込むように振り返ると、彼がいた。小麦色に焼けた逞しい腕が黄色い風を振り払うように左右に揺れている。
生理的に流れる涙と共に、彼に飛びついた私に、彼が笑って言った。
「よくここまできたなぁ」
彼は髪の毛に積っている黄色い砂の厚さを誤魔化すように頭を振って、その勢いに紛れて私にキスをした。砂を噛むようなキスだった。汗で張り付いた黄色い砂がざらざらとしていたが、抱きしめてくれた彼の腕の強さに何もかも許せる気がした。
(了)



