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創作トレーニング実習 第14回発表

2012-06-06

創作トレーニング実習 第14回発表
第14回の課題は、「時間と空間を意識して、小説の一場面を書く」でした。
以下のあらすじを、時空を意識して小説にしてください。
今あなたは友人と二人で、週末のファミリーレストランで順番待ちをしています。
週末の夕方とあって混雑しています。
隣の女性は同僚らしき男性にしきりに夫の愚痴を言っています。
店の奥からは先客たちのざわめきとウェイターの声が聞こえてきます。
一時間待って、ようやく席が空きました。
そのときはもうすっかり日が落ち、
愚痴を言っていた女性たちはもう食事を終えたところでした。
■第14回採用作
                                                          PN・大野秀行
 週末、友人と二人でファミリーレストランに行った。コンクリートの階段を上り、自動ドアを抜けると、レジの前で二十人ほどが席待ちをしていた。
「どうしよう、待つ?」
 友人は仕方なさそうに時計代わりにしているケータイを見る。
「六時か。どこも混んでるよな」
「だよね」
 僕はレジの横の紙に自分の名前を書く。
 レジのところまで来ると、店の中が見えた。カウンターもテーブル席も埋まっており、その間をウェイターが小走りで料理を運んでいる。正面の窓から西陽が差し、目を細める。僕もケータイを出し、友人と二人、しゃべるでもなく立ったまま時間をつぶした。
 ふいにそばで女性の声がした。
 ――女として見られていない気がして。
 横目で見ると、三十過ぎの地味な女性がいた。もっぱら聞き役となっているのは同僚らしき中年の男性。一瞬、三島由紀夫の『美徳のよろめき』を思い出す。名前が呼ばれ、くだんのよろめきカップルが窓際の席に案内される。少しして、彼らにステーキセットが運ばれてきた。
 暇つぶしに目の前の友人にメールする。
『めちゃ混みっす』
 着信を受けた友人は画面を見てにやりと笑い、「あほ」とは言ったが、彼も暇なのだろう、返事を寄こす。
『しゃべったほうが早くね?』
 そんなどうでもいいメールを繰り返し、お遊びにいい加減飽きた頃、僕の名前が呼ばれた。
 窓際の席に案内されると、もうすっかり陽が落ちていた。
 よろめきカップルの席にもう料理はなく、二人は食後のアイスティーを飲んでいる。
                                                                (了)