TK-プレス 其の48「素材は同じなのに」
「ビートルズの有名な曲は名曲、それ以外は隠れた名曲」と思っているのだが、それほどのフリークであっても気に入らない曲のひとつやふたつはある。たとえば「Honey Don't」。いろんな歌手がカバーしている名曲らしいが、どうも好きになれなかった。ところが、『THE BEATLES LIVE at the BBC』という未公開音源によるアルバムに収録された「Honey Don't」を聞いて、こんなにいい曲だった? 信じられん、と思ってしまった。曲調も歌詞も同じなのに、まったく別物だ。
「Honey Don't」は、『Beatles For Sale』の中ではリンゴ・スターが歌っていた。1アルバムに1曲はリンゴがボーカルをするという契約があったためだが、本来はジョンの持ち歌だったらしい。だからライブ音源ではジョンが歌っているのだが、その声がなんとも耳に気持ちいい。さすがは1/fのゆらぎだ。特に終盤、ちょっと早口で「aha,Honey been steping around,aha」と言うあたりは耳だけでなく唇にも気持ちよくて、「きもてぃ~」(T・岡田)って叫びたいくらいだ。
ところで、五木寛之はこんなエッセイを書いている。深夜、原稿を書いていて、ふと窓の外のデジタル時計を見ると「1:11」。次に見ると「2:22」。しばらくしてまた見ると「3:33」。こんな時間に働いているのはおまえと俺くらいだから気が合うのかと思いながら、もしやと思って見ると「4:44」、まさかもうないだろうと見ると「5:55」だったそうだ。翌朝、氏が編集者に昨夜の出来事を話すと、編集者は「よかったですね、『6:66』を見ていたらやばかったですよ」と。
こうした体験は誰にでもあるようで、同じ話を書いている作家もいるが、その趣旨はいろいろ。人によってはまったく違うものになっている。その意味では文豪が扱った題材をカバー(リメイク)してもなんら問題ないわけだが、それ以上の出来にするとなると超難関。太宰は『御伽草子』の中で因幡の白兎は「十六歳の処女だ」と書いているけど、下手をすると1/fのゆらぎじゃなくて、1/fのパクリになってしまう。天才の業は憧れるものであって真似するものではないのかも。(黒)
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