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社員ブログ

小説抄 其の45「星新一『きまぐれロボット』」

2011-04-19

小説を読もうとしたときに感じる不安は、つまらないかも? ということと、長くて読みきれないかも? ということだろう。山岡荘八の『徳川家康』は文庫で50巻もあり、子どもの頃は、あんなのを読破する人はどんだけ暇なんだ、いや違った、どんだけ辛抱強いんだと思っていたが、長編には、君の力ではちょっと無理だね、ほかをあたってよと言われたようなハードルが少なからずある。そんなとき、奇しくも山岡荘八と同姓の山岡君という同級生に、ある本を推薦された。


「うわ、なにこれ? 10ページもないじゃん」「うん、もっと短いのもあるよ」それは星新一の『きまぐれロボット』というショート・ショートだった。同じ星新一作品でも、大人向けのもの、毒のあるもの、最悪の近未来を予感させて怖くなるものもあるが、同書は朝日新聞の日曜版に連載されていた子ども向けのショート・ショートだったらしく、中学生になったばかりの私にぴったりだった。掌編小説ではなく、ショート・ショートというネーミングもお気楽そうでよかった。


ショート・ショートは誰でも書けると思うらしく、もどきを書く級友もいたし、投稿コーナーも多かった。しかし、「ははは、そういうオチか」という話はかけても、長編に匹敵する読みごたえのあるものは稀だった。ショート・ショートを「SFの俳句」と評した人がいたが、わずか十七文字で文章に匹敵する効果を出すのは並大抵ではない。ショート・ショートも同じで、文字を埋めるのはたやすいが、人間とか物事とかの真理を突いていないと、長い鑑賞には堪えられない。


俳句は小説を書くうえでも役立つが、役に立たない部分もある。同様にショート・ショートを書いても小説の練習にはならない。ただ、伏線やミスリードといった仕掛けは分析しやすい。そこには様々なトリックがあるが、基本は逆転、逆手。星氏には生まれつき犬歯がないそうで、子どもの頃はその肉体的欠陥に悩んだが、人類が人類になる以前はもっと犬歯があったのだから、ないのは進化した人間と考え、劣等感を跳ね返したそうだ。さすがというか、らしいというか。(黒)