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社員ブログ

小説抄 其の44「松本清張『点と線』」

2011-04-05

「締切前とかけまして(A)」「藪蚊に何ヶ所も刺されたと解く(B)」、その心は? 「我を忘れてかくでしょう(C)」なんてね。少し前まで大人気だった「Wコロン」ではないが、謎かけのおもしろさは、まったく違う二個のものが瞬時に関連づけられることだろう。特にAとBの関係が遠いほど、Cという解答を得たときの「なるほど、言われてみれば」度は大きくなるが、推理小説の場合も同じで、無関係に見えた点と点が繋がり、疑問が一挙に解決したときは快感だ。


締切前と言えば、今回の地震があったときは公募ガイドの特集の制作中で、そうでなくてもぎりぎり間に合うかどうかというスケジュールだったのに、一時は自宅待機になって時間がとれず、さらには計画的でない計画停電が計画どおり実施されて仕事にならず、おまけに予定していたインタビューが中止になってページに穴が空いた。かくなるはいささかやっつけ仕事に近いけど、取材もリサーチもなく個人的な引き出しだけで書ききるしかあるまいとトップギアで原稿を書いた。


そんなわけで仕事は遅れに遅れたが、ゴールが見え始めたある日、編集部のH君が「先に帰りますよ」と言って帰宅した。少し急いでいる様子。いつもなら私のほうが先なので、今日は用事でもあるのかなと思いながら時計を見た。長針が真上を向いている。午後11時。最電の11時50分から逆算し、私も会社を出た。ほどなく最寄り駅に着く。時刻は11時過ぎであるはずだ。ここのところ終電で帰ることが多かったので、今日はいつもより1時間ほど早く帰れると思った。


ところが、駅構内が暗い。到着時刻を示す電光掲示も消えている。運休かと思ったが、反対側のホームは至って普通。と、時計を見ると12時過ぎ。「12時?」そのとき、H君が先に帰った理由、暗い構内、消えた電光掲示の理由が一瞬で繋がった。真上を向いた長針。あれはよくよく考えれば12時。点と点が繋がり、推理小説を読み終えたときのような気分に……浸っている場合か、もう終電ないよと茫然自失。結局、別のルートで帰れたが、一時は我を忘れて冷や汗かいた。(黒)