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社員ブログ

TK-プレス 其の44「官能小説考」

2011-03-29

公募ガイド5月号(4/9発売)の特集は「恋愛小説」なのだが、ほとんどの小説には恋愛の要素があって「恋愛小説をどう書くか」というのは特集にならないと気づき、若干苦し紛れという面もあるのだが、「官能をどう扱うか」という項目を設けることにした。それで、ふだんはまず読まない官能小説を何冊か買い、「この作家とあの作家ではだいぶ書き方が違う」などと思いながら最終電車に乗った。仕事とは言え、こんな深夜にエロ小説なんて。ちょっとアホらしくなる。


思うに陰唇を見て興奮する男はいても、陰唇という言葉自体に欲情する人はいまい。言葉は記号であり、もっと言うと、本であれば紙の上に吹きつけられたインクの模様に過ぎないから、それだけではエロい気分にはなりようがない。そこに官能小説の不可能性がある。しかし、それが逆に官能小説の可能性でもある。言葉は時に意味やイメージをふんだんに醸すから、書かれていること以上の情景を想像して、図らずも「やべえ、勃起してきた」なんてことになる。


勝目梓は「ポルノ作家」の中で「官能小説のネタは、つまるところは一つである。誰もがよく知っていて、身に覚えのあることを題材にするしかない」と書いているが、なるほどそのとおりで、行為そのものが大きく変わることはない。おじさんと少女だろうと、バリまで男を買いに行くOLだろうと、フーゾク嬢でも同性愛でもSMでも自慰でも、見たことも聞いたこともないという話はない。設定は奇抜であっても、そこで行われる行為は同じ。身体の形状にも大差はない。


最初こそ興奮するが、そのうち慣れて飽きてくる。特に男性作家の場合、性行為と女体の描写が多く、またセックスと暴力がワンセットだったりしてどうにもおやじくさい。ところが、女性作家の場合、「挿入」したかと思ったら次の行で「果てた」とあり、そこに力点はなかったりする。セックスそのものを書かないからエロくなる。ある種のチラリズム……などと考えていたら最寄り駅を通過していた。引き返そうにも電車はない。なんだかなあ。いろいろな意味で萎えたよ。(黒)