TK-プレス 其の43「労働者階級は暖炉を持っているか」
ビートルズの「ノルウェーの森」という邦題は誤訳だそうだ。言われてみれば、私も中学生の頃に訳してみたことがあったが、確かに「彼女は部屋を見せた。いいね、ノルウェーの森」は意味が飛んでいる気がした。このNorwegian woodはイギリスの労働者階級が使っていた安い松の木のことで、本当は「家具」と訳すべきらしいのだが、しかし、今さらタイトルを変えられてもしっくりこないし、家具屋のセールじゃあるまいし、邦題「ノルウェー産の家具」ではしまらない。
そんなことより、ロックンローラーが逆ナンされてという解釈は……もとになった事実はそうだったとしても、どうもしっくりこない。2時までおしゃべりして(We talked until two)、彼女は「ベッドの時間よ」("It's time for bed ")と言うわけだが、そのあと、「私、明日の朝、仕事なの」と言われる。期待していた男としては、それはないよ! と言いたいところだが、返す言葉の「I told her I didn't」は「こっちは空いてるぜ」だろうか。ここは力なく「俺はないけど」じゃない?
冒頭の「I once had a girl Or should I say she once had me」の「had」を「ひっかけた」と訳しているものもあった。中学生のときの私は原詞に忠実に、「かつて彼女を持っていた。あるいは、彼女が僕を持っていたと言うべきかな」と訳したが、若い頃のジョンが革ジャンにリーゼントだからといって「ひっかけた」と意訳するのはどうか。お預けをくらってすんなり風呂場まで這っていく(crawled off to sleep in the bath)のだから、主人公はもっと気弱な青年ではないかな。
そして、もっとも納得できないのは、翌朝、風呂場で目覚めたとき、彼女は仕事に行ってしまっていて(This bird has flown)、そのあとの「So I lit a fire」を「だから暖炉に火をつけた」と訳してあるものがあること。労働者階級(Working class)の家に暖炉なんてあるのかな。ナンパした男を残して出掛けるぐらいだから調度品なんて皆無じゃないかな。仮に暖炉があったとしても、目覚めたのは風呂場なのだなら、「だからタバコに火をつけた」じゃないかと思うんだけど。(黒)



