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社員ブログ

TK-プレス 其の23「自惚れの功罪」

2010-06-08

まだ十代の頃、大手新聞社が「ジャーナリストを目指す学生のため」と銘打ったイベントを行い、同時に「無料添削」をしてくれるというので作文を提出してみた。数ヵ月後、編集委員による講評が届き(若い学生のために褒めてくれたのだとは思うが)、極めて具体的な言葉で大絶賛されていたので、やっぱ俺って書ける人なんだと自惚れてしまい、それからしばらくは妙に凝り凝りの変な文章ばかり書くようになってしまった。まあ、若さだろうね、山ちゃん。


同じ頃、文章作法の授業があり、プロの文芸批評家に見てもらうことになった。その際、「ヤニだらけの壁」と書こうとして、それじゃあ普通すぎてつまらない、「黒ずんだ」という言い方があるくらいだから、「ヤニずんだ」にしようと自信満々で書いたのだが、戻ってきた原稿には赤字で×がしてあり、そっけなく「こなれない」とだけ書いてあった。


こなれないだと! 人が必死に考えた表現をそんな一言で斬って捨てるか、この野郎! と殺意すら抱き、「肩凝り」だって元は漱石が考えた造語だろ、どんな言葉だって最初はこなれないもんなんだよ、こいつは何も分かっちゃいねえと腹が立った。今なら「分かってないのはおまえだよ」と言いたいが、そのときは激昂していてそれどころではなかった。級友たちもほとんどがくそみそに酷評されていたので、学食でお茶しながら、今度会ったら殴ってやろうなどと冗談まじりに話し合ったのだった(幸か不幸か臨時講師だったので、その後、会う機会はなかった)。


数日後、別の先生を囲んで飲む機会があり、「ヤニずんだ」の件を愚痴ると、「そういう独りよがりの表現をして気持ちがいいのは自分だけだろ、読み手は気持ちよくない。オナニーと同じだよ」と言われ、納得しつつも、さらなるダメ出しにずどんと落ち込んだのだった。ただ、この先生はこうも言った。「大いに反省し、しかし、最後にはこう思えばいい。俺の書くことが分からないなんて、俺ってなんて独自なんだろう」と。これには救われたなあ。(黒)