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社員ブログ

TK-プレス 其の12「川柳と狂句」

2010-01-05

江戸時代後期、川柳は1句につき12文(のちに16文)払って賞金を狙う懸賞文芸として誕生する。入選率は3%と狭き門だったが、うまくすればかけそば一杯の投句料が250倍の1両に化けるとあって人気となる。当時は選者である柄井川柳の名をとって川柳風狂句と呼ばれていたが、明治期には単に川柳と言われるようになった。


どんな文芸もそうなのだが、発展するほどに技巧に走るようになる。川柳もそうで、明治期には言葉遊びに過ぎない狂句に傾いていく。そこで改革が行われ、狂句と区別し、文芸としての川柳を新川柳と命名したが、いつのまにかこの「新」が取れて今はまた単に川柳と呼ばれている。つまり、今川柳と言われているのは文芸としての川柳ということだ。


しかし、川柳に対する誤解は甚だしく、「笑えるけど」といった駄洒落、語呂合わせが増え、しかもそれが入選してしまったりしてなんとも不可解なのだが、川柳公募の要項を見ていると、十中八九までが「おもしろければいいじゃん」的な作品を望んでいるような気がしなくもない。ま、元は川柳風狂句だからそれもいいし、明治期に「Goethe」の日本語表記が29種類もあったことを揶揄した斎藤緑雨の狂句「ギョエテとはおれのことかとゲーテいい」といったものも好きなんだけどね。


こうした爆笑を誘う瞬発力も大事だが、長く愛されるためには深みが必要だろう。江戸古川柳に「本降りになって出て行く雨宿り」という有名な句があるが、「早く帰ればいいのに、バカだね~」と笑ったあとでふと思う。人ってみんなそうだよなあ、そのうちやむよ、いや雨脚が強くなってきたぞ、でもまだ大丈夫、きっと大丈夫、だぶん大丈夫……大丈夫であってくれ~と思っているうちに、いよいよどうにもならなくなり、最悪の状況になってから行動を起こすとかね。こういう深いところで人間を捉えているのが本来の川柳だよね。(黒)