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社員ブログ

TK-プレス 其の11「原稿の書き方の規則」

2009-12-22

谷崎潤一郎の『細雪』は、改行した際に行頭の一字下げをしていない。明治期に始まった規則とはいえ、なぜこの作品だけが? となんとも不思議だ。一方、カッコで始まる文章の場合、今は一字下げにしない。原稿では下がっているが、全角カッコは活字のマス目(仮想ボディと言う)の上半分が空いているため、一字下げにすると見かけは1.5字分空いてしまい、これでは下がりすぎということで編集者がいちいち一字分詰めていくのだ(最近は原稿段階で詰めて書く人が多くなり、編集側としては助かっている)。


これらは厳格な規則ではないので、出版社によってやり方が違ったりする。特に時代を遡るほどバラバラなのだが、しかし、ここ20年程の商業誌を見るとほぼ同様の表記をしている。例外は新聞社。新聞は日刊という都合上、能率最優先で、カッコで始まるときだけ一字下げをしないという面倒なことはしない。ナカグロ(「・」という記号)が行頭にあっておかまいなし。


一般の印刷物では、カッコ内の最後の句点(マル)を省略するという規則もある。これも厳格な規則ではなく、教科書や児童文学、あるいは明治、大正の小説などでは省略していないものもある。村上春樹もデビュー作の『風の歌を聴け』では「俺は御免だね、そんな小説は。反吐が出る。」とカッコ内であっても最後にマルを付けている。しかし、これはデビュー作だから、つまりはアマチュア時代に書いたものだから、学生時代の表記のまま書いてしまったのだろう。実際、二作目の『1973年のピンボール』では担当編集者に指摘されたのか、この句点は省略されている。


この不文律の規則を定着させたのが誰かは分からないが、おそらくは志賀直哉だろう。こんなとき、どう表記する? と思ったとき、人はだいたい先人の例に準じる。ならば「小説の神様」の真似をしようということになったのではなかろうかと。(黒)