TK-プレス 其の6「物語の文法」
ある作家に「作家の条件」と題する原稿を依頼したところ、その中に「物語のパターンについてはひたすら、たくさん本を読んで学ぶしかない。しかも、二十歳を過ぎてからでは遅い」と書かれており、二十代以上の人が読んだら寝込んでしまうのではないかと思ったことがある。
ものの本によると、お話を作る能力は五歳くらいからつきはじめるそうで、幼稚園児でも「お母さん・公園・ハサミ」といったキーワードを与えられると、それなりにお話を作るという。それを可能にしたのは、お話を読んだ経験があったから。文法を知らない幼児でも言葉を話すように、何十冊も読み聞かされるうちに物語の文法を無意識に理解したのだ。これが分かっていると、素材さえ放り込めばまるでジューサー・ミキサーのようにたちどころに物語を紡ぎだす。
この力は、若いうちに決まってしまうという意味では動体視力と似ているかもしれない。筋力や持久力は大人になってからでもつくが、動体視力は十歳前後までにどんな遊びをしたかで決まってしまい、歳をとってからトレーニングをしてみてもさしてよくはならない。同様に物語力も、頭がかたくなる二十歳前後までにどんな本をどれだけ読んだかで決まってしまい、成人してから鍛えても大きな成果は期待できない。
一点、光明があるとしたら、今は衰えているが、かつてはよかったと仮定できること。もともと悪いものは飛躍的には伸びないが、衰えているだけなら訓練次第ではめきめきと回復する可能性は十分にある。
もちろん、すぐにとは言えない。遠ざかっていた時間が長ければ長いほど勘を取り戻すのには時間がかかる。何年も放っておいたら車だってメンテが必要なように、元に戻すにはそれなりの時間がかかる。まあ、しばらくは我慢ですね。(黒)
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