Logo
employee blog

社員ブログ

小説抄 其の5「藤沢周平『たそがれ清兵衛』」

2009-10-06

父から届いた初版本には、ダンボールの隙間を埋めるため適当に本が詰めてあった。何かの役に立つような実用書のたぐいは読まないので処分してしまったが、その中に藤沢周平があり、もったいないのでとっておいた。が、しばらくは積ん読だった。


歴史小説は読むが、時代小説は食わず嫌いで、名もなき下級武士の話なんて読んでも仕方ないと思っていた。しかも、帯には「映画化」なんて書かれている。映画化がなんだ、みんながそっちを向くなら、俺はいいでしょと反射的に思ってしまう。流行なんて大嫌いだし、それに乗っかっていい気になっているやつにも虫唾が走る。


ただ、ある文芸評論家の方が「時代小説アレルギーがある人でも藤沢周平は大丈夫」と言っていたことを思い出し、半信半疑ながら電車の中で読み始めた。もうまんまと嵌まってしまった。「自分と同じような人が、自分にはできないことをやる」というからくりは見えているのに、自らツボに嵌まりたくなって止まらなくった。


気づくと電車は最寄り駅に着いており、慌ててホームに飛び出た。そこに知り合いがいて「ずっと横にいて挨拶しようと思ったのですが、なんか近寄りがたい雰囲気で」と。彼によると、声にこそ出さないが、私は一人唸ったり、ほくそ笑んだりしていたそうだ。やべえ、それじゃあ、ちょっと危ない人だよ。(黒)