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小説抄 其の2「村上龍『限りなく透明に近いブルー』

2009-08-25

村上龍の『限りなく透明に近いブルー』が群像新人文学賞を受賞し、その年の芥川賞もW受賞したのは中学生のときだった。当時マリファナ&乱交パーティーという内容は衝撃的で、武者小路実篤や堀辰雄しか知らない秀才君に、「この×××ってどんな意味?」と聞かれたときには、「さあね」と惚けつつ、そんなこと人前で聞くんじゃねえと冷汗をかいた記憶がある。


今でも現代文学の秀作に数えられる同作だが、受賞第一作の『海の向こうで戦争が始まる』の評価はさほどでもなく、自ら『ブルー』を映画化しようとしてうまくいかなかったりして、このままでは一発屋になるのではと危ぶまれた時期もあった。


デビューすれば受賞第一作は書かせてくれる。が、そこで波に乗れず、さらに次も失敗となるともうヤバイ。三作目までにデビュー作を超える作品を書かなければ作家生命は終わると言われているからだ。しかし、氏は三作目で『コインロッカー・ベイビーズ』という傑作を物した。以降、順調に話題作を上梓し、第一人者になったのは周知のとおり。


それとどんな関係があるのかは分からないが、室町幕府も江戸幕府も、足利尊氏、徳川家康の初代将軍を出したのち、足利義満、徳川家光という三代将軍のときにその後の基盤が作られている。同様に、今なお中堅、大御所として活躍している作家は、世に出る契機となった作品のほか、その後の方向を決定づける中興の祖的な作品があるような気がする。(黒)