言葉処 其の96「合併市町村名」
市町村合併が促進された時代は過去3回ある。明治22年の「明治の大合併」と昭和30年前後の「昭和の大合併」、そして「平成の大合併」だ。合併に際しては数々の難題があるが、自治体名もその一つで、「南セントレア市」「中央アルプス市」など市民の反対で廃案となったものや、「知床市」「白神市」など近隣から「観光客を取られる」と中止を求められて廃案になったケースもある。
一番単純な新市名は「西東京市」「南相馬市」のように地域名に方角を付けたり、「春坂市」「東御市」のように合併町村名から1字ずつ取るパターン。ただ、いささか安直。奇をてらってか「さいたま市」「みどり市」「東かがわ市」「にかほ市」などひらがな市も生まれたが、字面が安っぽいという批判もあった。その点、初のカタカナ市の「南アルプス市」には言葉に力があって妙案だった。
「静岡市」との合併では「清水市」がなくなったが、地名の消滅や新市名への違和感が合併反対の根だったりもする。だからか「加美市」「郡上市」「養父市」(郡名)や「阿賀野市」「吉野川市」(河川名)、「飛騨市」「さぬき市」「丹波市」「京丹後市」(旧国名)など、もともと馴染みのあった名称を採用した例も。ちなみに「伊賀市」と「甲賀市」は忍者の里として交流しているそうだ。
茨城県には「つくば市」の隣に「つくばみらい市」が、埼玉県には「富士見市」の隣に「ふじみ野市」が誕生して物議を醸した。「府中市」(東京と広島)、「鹿島市」(茨城と佐賀)など同名の自治体も以前からあったが、近隣では紛らわしいかもしれない。だが、どんな名前にしろ、馴染むまでは違和感があるもの。いろいろ批判はあっても、孫子の代になるとそれが普通になる。(黒)



