言葉処 其の92「野球とベースボール」
2009-06-02
ベースボールのルーツは、アメリカで行われていたらラウンダーズだそうだ。このスポーツは、打って何点取れるかという競技で、投手は下手投げで好球を投げる。だから、いい球を見逃すと審判は「打てよ」という意味で打者に「ストライク」と言い、投手が悪球を投げると「打ちにくいよ」という意味で投手に「アンフェア・ボール」と言う。これが投球の「ボール」の語源。
攻守交替はワンアウトチャンジだが、打者は打球をノーバウンドで捕球されなければアウトにならないので、なかなか終わらない。「154対215」なんてこともざらにあり、だからベーベキューでもしながら日がなゲームに興じる。3時間以内に終わらないと近代スポーツとして発展しないと言うが、その意味ではラウンダーズはレジャーであり、このままではスポーツたりえなかった。
ベースボールは明治5年に日本に伝わり、正岡子規の先輩でもある中馬庚によって「野球」と意訳された。しかし、ルールも道具も海を越えたが、指導法まではない。そこで武道のやり方が模倣された。「試合前の礼」「グラウンド挨拶」「道具を大切にする」「グラウンドは神聖なものである」。みな武道からの借り物だ。特に社会教育を兼ねるアマチュア野球ではこれらが徹底される。
アメリカにおいてレスリングがプロレスになったように、アメリカ人は、受けるときは徹底して攻めさせ、攻撃となると派手にやるのが好きなようだ。アメリカンフットボールにも似たところがある。一方、武道では堅守が重視され、相手の良さを殺して瞬殺してもいい。“見せる”ことは想定の外だ。野球とベースボール、どちらもいいが、根底にある思想はまるっきり逆だ。(黒)



