言葉処 其の90「『うらぼん』ってどんな本?」
ぼんやりしているときに「せがき」と言われ、なんだか分からなかった。「背書き? なんか書くの?」と問うと、「ウラボンだよ」と。よくよく聞くと「施餓鬼」、つまり仏教の行事のことだった。ちなみに一般に「お盆」と言われる「盂蘭盆」はサンスクリット語の「ウランバナ」の音写語だそうで、当たり前だが、エッチな裏モノの写真集を指す俗語「裏本」とはなんの関係もない。
「お盆」のように宗教から来た言葉はあまたあり、「内緒」もそう。仏教用語では「内証(ないしょう)」と書き、これは内心の悟りのこと。「嘘も方便」の「方便」も仏教由来で、これは衆生を救うための詭弁。「油断」は、『涅槃経』にある「壺の油を一滴でもこぼしたら命を絶つぞと言われた」という話が語源。この「涅槃」は「ニルヴァーナ」の音訳で、不生不滅の境地のことだ。
力むときに言う「どっこいしょ」は、霊山に登るときなどに言う「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」が語源という説も。「彼岸」はもちろん仏教用語で、「此岸(現世)」に対して「彼岸」、つまり「向こう岸」という意味。ただ、ニーチェの『善悪の彼岸』の「彼岸」は「超越したもの」という意味であり、お彼岸の過ごした方について説いた本のようだが、むろん、そうではない。
よく「人生、万事塞翁が馬」と言うが、正しくは「人間(じんかん)」であり、意味は「世間」で、これも仏教用語の一つだ。ほか、「迷惑」「面目」「融通」「奈落」「皮肉」など、仏教由来の言葉を挙げればキリがない。普段は至って無信心でも、身の周りは意外と宗教だらけだ。ちなみに「キリがない」の「キリ」は、仏教ではないが十字架を意味する「クルス」が語源という説も。(黒)



