言葉処 其の87「がんばれ!田淵」
クイーンの「キラー・クイーン」の中にある「gunpowder, gelatine」という歌詞が「がんばれ、田淵」に聞こえるというのは有名だが、それまでは「ガンパウダー、ゼラチン」と聞こえていても、事前に「がんばれ、田淵」という日本語が頭にあると、大脳が字幕のようにしてそれを読んでしまい、聴覚は働かなくなってしまうらしい。ちなみに、この田淵は阪神~西武の田淵幸一選手だ。
この手のものは山ほどある。「掘った芋、いじるな」(What time is it now)や「知らんぷり」(Sit down please)はつとに有名だが、ほかにも「揚げ豆腐」(I get off)、「That you know」(だっちゅーの)、「わっかんない、意味」(What can I mean?)といったものもあり、意外と通じそう。実際、「water」は「ウオーター」では通じないが、ジョン万次郎流に「わら」と言うと通じる。
とまれ、なんでもない言葉でも英語にするとカッコいい。「I love you, I need you, I want you」というキザなセリフも英語なら様になる。これは舶来志向のなせる業かと思ったが、英語は響きのいい言葉と感じるのは西洋人も同じらしく、どこの国の歌手かは忘れたが、語呂合わせの英単語を並べただけのデタラメな歌を歌っている人がいるそうだ。英語版ハナモゲラ語と言うべきか。
一方、和訳するとおかしい言葉も。ブルース・スプリングスティンの『Born in the USA』は日本語で「俺はアメリカで生まれた」と連呼すると、まるで吉幾三だ。シカゴの『25 or 6 to 4』は直訳すれば「4時25,6分前」だが、70年代、世界中の若者が目覚まし時計の音声ガイダンスと化した。ちなみに、ドラッグでラリった体験を歌ったこの歌、邦題は「長い夜」と詩的だ。(黒)



