言葉処 其の86「蟹が縦に歩くが如し」
駅の窓口で「to Washington」と言ったら切符が2枚出てきてしまい、慌てて「for Washington」と言い直すと4枚! こんなとき前置詞は何を使うんだ、「えーと(eight)」と考え込むと、今度は8枚出てきたという話がある。笑っていられるのはここが日本だから。外国に行けば明日は我が身。かく言う私も、「bourbon」を注文して「what’s バーボン?」と言われたことがあった。
この手の話はあまたある。日系人が「ライス」と言って「lice(寄生虫)を食うのか」とバカにされたとか、オシャレなバーで「bloody mary」を注文したらなぜか「bread and butter」が出てきたとか。私の知人は「hamburger」と言って通じなかった。ところが、なぜか「cheese burger」は通じる。そこでチーズ嫌いの知人はこう言って注文した。「cheese burger without cheese!」
小学校の修学旅行で日光に行ったときは、外国人観光客が珍しくて握手待ちの行列ができたことがあった。いよいよ私の順番。緊張して思わず「はい」と言って手を差し出すと、「Hi!」と解され相手は満面の笑顔。周囲には「英語が話せる」と思われて鼻高々だったが心中複雑。さらに「Can youなんたらかんたら」と言われ、「bye」すら言えずほうほうの体で退散したのだった。
ドイツ訛りにフランス訛り、南部訛りにAussie Englishもあり、ビートルズはリバプール訛り。だから日本語訛りでいいと開き直りたいが、問題は訛ることすらできないこと。留学中の恩師は、じきに英語が話せるようになるインド・ヨーロッパ語族の学生に「君はなぜ上達が遅い?」と聞かれ、「日本語は縦書き。英語を学ぶのは蟹が縦に歩くが如し」と答えたという。けだし名言!(黒)



