言葉処 其の79「ものの名前 病気編」
質問しても答えない病気は? 答えは「扁桃腺(返答せん)」なんてなぞなぞがあったが、子供の頃、「ヒダリヘントウセンヒダイ」と診断されたことがあった。どんな大病かと思ったが、要するに左の扁桃腺がもともと大きいということだった。そのせいか風邪をひくと、デカい扁桃腺が更に腫れて桃の種のようになり、「扁桃腺とはよく言ったもんだ」と変に感心してしまったりした。
それから十年ほど経ったある日、猛烈に喉が痛い気がしたので早くに床に就いたが、一晩中痛みがひかず、翌朝には口を開けることもできなくなった。そこで初めて「これは喉じゃない」と気づき、歯医者に行くと親不知と言われた。親不知は退化した歯で、出るべき孔のない部分の歯茎を突き破って出てくるという。なるほど、それで「親知らず」かとこれまた納得してしまった。
「ぎっくり腰」はどこかユーモラスな名前なので、「ぎっくり腰になった」と言われてもつい軽く受け止めてしまうのだが、正式には「急性腰痛」と言うそうで、意外とやっかいな病気らしい。西洋では「魔女の一撃」とも。「もやもや病」もなんだか変わった病名だが、これは脳の血管造影がそう見えることからついた俗称だとか。名前ほど軽微な病気ではないみたいだが、誰がつけたのやら。
「はたけ」は子供に多く起きる皮膚病で、正しくは「顔面単純性粃糠疹」と言うそうだが、これを「畑」に見立てたのはユーモアがあっていい。顔面と言えば、以前、息子に「『あばたもえくぼ』の『あばた』って何?」と聞かれたことがあった。「疱瘡の跡だろ」「ほうそう?」「今は天然痘と言うのか」「天然痘?」「あ、もう絶滅したんだっけ」説明に窮した。すべての病気がかくあらん。(黒)



