言葉処 其の77「ものの名前 昆虫編」
2009-02-17
「蟻地獄」とはなんとも恐ろしいネーミングだが、おもしろがって蟻を落としてみても、その蟻地獄に合ったサイズでもあるのか、たいがいは平気で脱出していく。この蟻地獄の底で待ちかまえているのは薄羽蜻蛉の幼虫だが、子供の頃、これは「ウスバカ・ゲロウ」と見下して呼んだものだと思っていた。子供は漢字より音から入ることが多いので、しばしばこんな誤解が起きる。
昔はよく桜に虫がつき、それを焼くのが春の風物詩だったが、その虫はアメリカシロヒトリと言った。「シロヒトリ? 鳥なの?」と思ったが、「ヒトリ」なんて虫は聞いたことがなかったし、江戸っ子は「アメリカヒロシトリ」なんて言うから余計に訳が分からない。最近はあまり見かけないが、代わりに「茶毒蛾」が猛威を奮っている。チャドクガ……名前も怖いが、痒さも桁外れ!
コオロギや鈴虫、キリギリスなどの名前の由来は鳴き方にあり、クツワムシは「ガチャガチャ」という声が轡(馬の金具)の音に、また、ウマオイは「スイッチョン」という声が馬方の呼び声に似ていることからきたそうだ。カマドウマは、「カマドの馬のような」の意のようだが、鳴かないせいか親しまれず、よく外トイレで遭遇したので学校では「便所コウロギ」なんて呼んでいた。
ナナフシはその名のとおり足が七本あるように見える昆虫で、よく枝に擬態している。ショウリョウバッタは漢字では精霊バッタと書き、決して「少量」ではない。バッタといえば、「イナゴの大発生」はバッタであることも多いらしい。日本ではイナゴをバッタと言ったり、その逆だったり、またイナゴもバッタもイナゴと呼ぶ地方もあり、なぜか「バッタの大発生」とは言わない。(黒)



