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社員ブログ

言葉処 其の62「『美味しんぼ』って変じゃね?」

2008-11-04

漫画『美味しんぼ』は「食いしんぼ」をもじったものだと思うが、文法的にはおかしい気もする。「んぼ」は「の坊」の転だからこれでいいが、「食いしんぼ」の「し」が「過ぎ去りし」「来し」と同じ強調の副助詞「し」であるのに対し、「おいし」の「し」は形容詞の語尾なので引っかかる。「おいしがり」と名詞化し、これに「んぼ」で「おいしがりんぼ」ならいいけれど長い。


「がる」は、そのようなふりや話者の感じ方を示し、「痛がっています」のように使うが、以前、サッカー中継で「痛んでいます」と言っているのを聞いて、なんだか腐敗・破損して「傷んで」いるようで変だった。「ばむ」は「汗ばむ」など状態を示すが、「黄ばむ」のようによく聞くもののほか、辞書には「戯ればむ」「白ばむ」「黒ばむ」なんてのもある。「黒ずむ」とどう違う?


「ずむ」もそのような状態になるということだが、負の印象が強い。「涙ぐむ」などの「ぐむ」は予兆を示すが、意外にも「汗ぐむ」という言い方があった。「春めく」の「めく」は日本人好みなのか「目くるめく」「ざわめく」「なまめく」など用例が多く、ほか、辞書には「いらめく」「とろめく」「ののめく」など古文でしか見かけないような「めく」が「ひしめく」状態だ。


「よろめく」を不倫の意で初めて使ったのは三島由紀夫(『美徳のよろめき』)だったと記憶しているが、作家はたまに造語をする。「肩が凝る」は漱石の造語だ。一方、川端康成の『伊豆の踊子』の中には「明るんで」とあり、形容詞に「んで」は変だ、文豪の勇み足かと思ったが、「明るんで」の原形は「明るむ」という動詞だった。康成先生は「造語んぼ」ではなかったみたい。(黒)