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社員ブログ

言葉処 其の53「語源を遡れば」

2008-09-02

唐の詩人、賈島(かとう)はロバに乗りながら詩作にふけり、政府の高官、韓愈の行列に突き当たってしまう。「無礼者」とひっとらえられた賈島は釈明して許しを乞う。「『僧は推(お)す月下の門』と『僧は敲(たた)く月下の門』ではどっちがいいか考えていてうっかり」。すると文学者でもある韓愈はしばし考え、音が感じられるから「敲く」だと。これが「推敲」の語源。
「登龍門」は、ジッドの『狭き門』の影響か、そういう門があるのだと思いがちだが、これは書き下せば「龍門ニ登ル」。後漢時代、李膺という高官に認められれば将来の出世は約束されたも同然であり、世間はそんな人のことを「龍門に登った」と言った。龍門とは「そこを登りきった鯉は龍になる」と言われた急流で、人々はこの伝説になぞらえて言ったというわけだ。
『隋唐佳話』という隋唐の逸話をまとめた書物によると、許敬宗という男は「曾植や謝霊運のような有名な人物と出会ったなら暗闇の中だってすぐに分かるさ」と言ったという。ここから「暗中模索」という言葉が生まれたわけだが、日本に入ってくるときに意味が逆になってしまった。「五里霧の中にいる」という意味の「五里霧中」(『後漢書』張楷伝)との混同か。
逆と言えば、納豆は大豆を腐らせたものだから「豆腐」で、豆腐は豆乳を器に納めたものだから「納豆」。日本に渡る際に逆になったのかと思ったが、これは見当違い。納豆の「納」は倉庫のこと。また中国語で「腐」は「固まった」という意味だそうで、チーズは「腐乳」と書く。チーズと言えば、醍醐天皇の醍醐はチーズのこと。よっぽどチーズ好きだったんだね。(黒)