言葉処 其の50「紛らわしい慣用句」
「汚名返上」と「名誉挽回」で「汚名挽回」とか、「的を射る」と「当を得る」で「的を得る」とか、「喧喧囂囂(けんけんごうごう)」と「侃侃諤諤(かんかんがくがく)」がまざって「けんけんがくがく」とか、紛らわしくていけない。「対岸の火事」と「他山の石」も意味を取り違えやすいし、「舌先三寸」は「口先三寸」、「舌の根も乾かないうち」は「舌の先」と言ってしまったりする。
「采配を振る」は「奮う」と言ってしまい、「赤貧洗うが如し」は「清貧」と間違えやすい。「立つ鳥、跡を濁さず」を「飛ぶ鳥」と言ってしまうのは「飛ぶ鳥を落とす勢い」の影響か。「雉も鳴かずば撃たれまい」は「雉も飛ばずば」と、「白羽の矢が立つ」は「矢が当たる」と言ってしまいがち。それでは大ケガだ。「二の舞を演ずる」「二の足を踏む」「二の句が継げない」も紛らわしい。
「娘十八、番茶も出鼻」と言ったりするが、正しくは「鬼も十八、番茶も出鼻」。鬼でも十八の娘なら、という意味だ。「情は人のためならず」は「人のため」ではなく「自分のためになる」ということ。「気がおけない人」は「不審者」ではなく「気遣いしなくてよい人」。論語の「朋有り、遠方より来る、亦た楽しからずや」は……。クイズ番組でさんざんやっているので以下省略。
諺や慣用句には似たものが多く、以前、星新一と筒井康隆が言葉遊びをしていた。その中の最高傑作は「喉元過ぎれば暑さを忘れる」と「暑さ寒さも彼岸まで」をミックスした「喉元過ぎれば暑さ寒さも彼岸まで」。また「狂気の沙汰」と「地獄の沙汰も金次第」を合わせた「狂気の沙汰も金次第」は筒井の小説のタイトルにもなっている。こういう誤用なら楽しくていい。(黒)



