言葉処 其の46「燃えるゴミとは?」
2008-07-15
昭和のアイドル歌手 天地真理のヒット曲に「若葉が街で急に萌え出した」とあり、音だけで聞いたので超常現象か放火かと思ってしまった(どんな歌詞だよ)。後年、「春は萌え夏は緑に紅の綵色に見ゆる秋の山かも」と万葉集にあるのを見て、あれは「燃える」じゃなくて「萌える」だったのかと気づいた。今風に言うと「そっちの?」って感じだが、早く気づけよって話だよね。
「燃える」は「燃える男の赤いトラクター」(by小林旭)の「燃える」で、今まさに燃えている状態を指すが、これは可能動詞と似ていて紛らわしい。それゆえ「燃えるゴミ」の表示を見て、今まさに燃えているゴミなのかと思ったという誤解(笑い話)が生まれたりするのだが、だからといって水をかけたり、消防署に通報したりした人がいたという話は寡黙にして知らない。
ただ、誤解するのももっともで、「動く」のような五段活用の動詞はエ段に活用させて「る」を付ければ「動ける」のように可能動詞になるが、「燃える」は下一段活用だから、可能動詞を作るとするなら「られる」を付けて「燃えられる」だろう。しかし、「燃えられるゴミ」では敬語か受身のようでおかしい。「燃える」は人の意志でない動詞(自動詞)だから可能動詞は作れない。
そのせいか、最近では他動詞の「燃やす」を可能動詞にして「燃やせるゴミ」としたりしている。「燃せるゴミ」もあった。「燃す」は古い言い方で、志賀直哉の『焚火』にも『燃しつける』とあるが、これも五段活用だから「燃せる」でOK。ただ、可能であること示すなら「可燃ゴミ」がいい。もっとも返り点を付けて「燃えるべし」と読まれたら放火されるかもしれないけど。(黒)



