言葉処 其の41「キリンは麒麟じゃない」
2008-06-10
狐や狸など古来中国人に知られている動物は日本語でも漢字で書かれ、ペンギンやカンガルーなどはカタカナで書かれる。20世紀初頭、新種の哺乳類オカピがアフリカで発見されたが、もっと早く発見されるか、生息地が中国だったなら、「丘秘」といった漢字が当てられるか、まかり間違うと、馬のような鹿のような、ということで「馬鹿」と名付けられていたかも!
象や虎、豹はアジアにもいるから漢字があるが、キリンはアフリカに棲み、昔から中国人におなじみとは思えないのに麒麟と書かれる。この麒麟は聖人が出て王道が行われたときに現れる中国伝説上の一角獣(ビールのラベル参照)であって、キリンとは無関係だから、本来ならキリンには首長牛といった字が当てられるか、英名のジラフを音訳して呼ばれるはずだった。
ところが、明の時代、キリンが永楽帝に献上された際、ソマリ語で「ゲリ」(首の長い草食動物)と紹介され、この音が「キリン」と似ていたため、実在する麒麟ということにされてしまった。これが和名になるのだが、キリンは麒麟じゃないから麒麟じゃないキリンをキリンと呼ぶとどっちがどっちだかややこしくていけない。ちなみに中国では今は長頸鹿と言うそうだ。
クック船長率いる探検隊がアボリジニに「あの動物の名は?」と聞いたところ、現地の言葉で「カンガルー(〈英語は〉分からない)」と答えたため、それがそのまま名前になったという説がある。この発見がもっと早かったら、中国語に準じて「袋鼠」と呼ばれていたか、それとも音訳して「観俄留兎」か。直訳して「不明」だったら笑えるけど、それではカンガルーも考るうよね。(黒)



