言葉処 其の40「代用漢字の功罪」
2008-06-03
「世論」は「よろん」とも「せろん」とも読むが、本来「よろん」と「せろん」は別の言葉で、「よろん」は「輿論」、「せろん」は「世論」と書く。厳密には「よろん=情緒的な民衆の共感」、「せろん=理性的な公的意見」という違いがあるそうだが、戦後の漢字使用の制限で「輿」の字が使えなくなったため、「世論」と書いて「よろん」「せろん」いずれも読むとされた。
「世論」に統一されて久しい今は、一般には「よろん」と「せろん」の区別はされていない。どちらを選ぶかは好き好きだが、1989年にNHKが行った調査では「よろん派」が63%と多数派だった。私も「よろん派」で、だから「せろん調査」と言われると違和感を覚える。ちなみに「輿」は「与」の旧字の「與」や「興味」の「興」ではなく、「神輿・玉の輿」の「輿」だ。
「交差点」は「道が交わり車や人が差しかかる点」を略したようにも思えるが、以前は「交叉点」と書いた。しかし、常用漢字に「叉」の字はなく、仕方なく「差」の字があてられた。「囲」の語源は「井戸」と関係ありそうだが、旧字は「圍」で、「韋」が「イ」と読むので簡略化するために同じ読みの「井」に変えられた。「月蝕」も「蝕」が常用漢字でないので今は「月食」と書く。
「缶」は本来「素焼きの甕」を指し、金属製の場合は「罐」と書いたが、戦後は「缶」で統一された。「虫」は爬虫類を指し、昆虫は「蟲」だが(ゆえに蛇は「虫偏」)、今は新字の「虫」に統一されている。だから年配の方は「ドラム缶」では陶器のようだろうし、唱歌『虫のこえ』は鰐や蜥蜴の声に思えるだろう。今、『蟲のこゑ』と原題で表記すると、かわいげがないけどね。(黒)



