言葉処 其の26「和製英語という日本語」
四球をフォアボール、死球をデッドボールと言うのは和訳の再英訳で、英語ではウォーク、ヒット・バイ・ピッチ。ゲッツー(Get two)も和製英語で、英語ではダブルプレー、タッチはタッグ、ホームベースはプレートと言う。オーライ(All right)の掛け声は「I got it」で、捕る前に「捕った」と言うのも変だが、勝利を確信したときなどに「もらう」と言わず「もらった」と言うようなものだろう。
「立入禁止」(中に入るな)は英語では「Keep away」(離れたままでいろ)と表現するが、言葉の違いというよりは発想の違いというものもある。直球は日本ではストレート(Straight)だが、英語ではファーストボール(Fast ball)。問われているのは速いか遅いかであり、変化したかどうかではない。だから、Moving fast ballを「変化する直球」と訳してしまうと形容矛盾に陥る。
和製英語ではないが、日本語では股間を抜ける後逸を比喩的にトンネルと言い、英語ではGo through fielder's legsと説明的に言ったりする。また、日本人が「さよなら~」と叫ぶのを聞き、アメリカのメディアは誰かに呼びかけているのかと関心をもったらしく、その比喩のおもしろさと語感の良さから今ではGame-ending homerunとは言わず、Good-Bye baseballと言うようになった。
英語でナイスボールと言うと球の材質が良いことになってしまうからGood pitch、ノーコンはBad control、救援投手のリリーフはReliever、エンタイトルツーベースはGround rule doubleだが、もう和製英語に慣れてしまった。ナイターは昔からある和製英語で、英語ではNight gameと言うが、文法的には誤りでも日本の球場ではナイターと言ったほうが生ビールは格段にうまい。(黒)



