言葉処 其の22「日本語の色」
2008-01-29
信号の「進め」は青だが、何十年か前はもっと緑に近かった(ように思う)。俗説では、信号そのものの青に電灯の黄色が混ざって緑に見えると言われていたが、どうやらこれはこじつけだったらしい。国際法ではRed、Yellow、Greenであり、日本に入ってきた時点では色も呼称も緑だったはずである。なのに、それがどうして青になってしまったのか。
実は、日本語の青は緑を含む。野菜や果物のことを青果と言い、緑色の葉菜類を青菜というように、古来、緑は青のひとつだった。だから「青々とした芝生」といった表現をするわけだが、現代人の感覚で「青」と言えばBlueそのものだから、青信号が緑ではおかしいという理屈になり、かくて現在のような「青々とした青」になった。
しかし、日本人の色彩感覚が鈍かったわけではない。日本の伝統色(和色)を見ると細かく分類されており、たとえば同じ紫でも古代紫、江戸紫、桑の実色、ぶどう色、茄子紺ときりがない。すみれ色としょうぶ色とあやめ色、蜜柑色と橙色、たんぽぽ色とひまわり色と菜の花色と山吹色など、どこがどう違うのかと思ってしまうものもある。
空色、桜色、柿色、竹色、鳶色、栗色、狐色、山鳩色など、和色はほとんどが比喩であり、茶色、桃色、灰色、鼠色、黄土色などもそうだ。肌色は今や差別語として排除され、絵具などの商品ではペイルオレンジと表記されているそうだが、文学の場合、日本人固有の慣用表現ということで許容してもよくはないか。それとも砥粉色、肉色とでも言うか。(黒)



