言葉処 其の19「ギョエテとは」
明治時代、Goetheの表記はゲーテのほか、ギョエテ、ゴエテ、ギェーテなど実に29種類もあり、斎藤緑雨はこれを「ギョエテとはおれのことかとゲーテいい」という狂句で揶揄した。インドの初代首相は「ネール」だったが、のちに「ネルー」と改められた。「アンデルセン」の原音は「アナスン」だそうだが、これは定着して久しく、そうと分かったときは変えようにも手遅れだった。
写実主義のRealismはリアリズムだから、超現実主義のSurrealismeもシュールリアリズムと言いたくなるが、こちらはフランス語なのでシュルレアリスムと読む。療法を意味するTherapyは、フランス語ならテラピー、英語ならセラピーと書く。attacheは大使館の駐在武官のことで、彼らが持つようなカバンをアタッシュケースと言っていたが、今は発音どおりアタッシェケースと呼ぶ。
Abracadabraはアブダカダブラが正式っぽいが、アブラカダブラが正しい。Simulationは発音しにくいのでシュミレーションと言いたくなるが、正しくはシミュレーション。Pennsylvaniaの外来語表記はペンシルバニアではなくペンシルベニア、Beaujolais Nouveauはボジョレーの表記も相当出まわっているが、ボージョレ・ヌーボーと書く。
かつて殺虫剤のDDTをデーデーテーと呼び、Bedをベットと発音し、Tea bagはティーバックと言った。「ブルドックソース」や「ビックカメラ」もかつての発音の名残だろう。わが父はT字路を「テー字路」と発音し、昔は「丁字路」だったと言い張る。調べてみると、道路標示は路上に「T」と書くが、法令では「丁字路」が正式表記だった。だとすると、「丁」の字の縦棒のハネはなに?(黒)



