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社員ブログ

言葉処 其の16「なにをもって方言と言うか」

2007-12-18

会社の給湯室で茶壺を手に「アレがない」と言っている後輩がいた。すぐに「急須」のことだと気づいたが、その直後、彼は思いもよらない言葉を口にした。「きびしょがない」と。「なにそれ? 方言?」と笑ったが、調べてみると、急須を意味する「きびしょ」という言葉はかつて広く一般に使われていたようで、『東海道中膝栗毛』にも出てくるという。方言というより古語と言うべきか。


かく言う私の郷里埼玉では、すべすべしていることを「のめっこい」と言う。語源はおそらく「なめらか」だろう。「もっと」のことは「まっと」と言い、「な」が「の」、「も」が「ま」に変化するなど、標準語とは微妙に違う。言葉を強く発音する武家によって「あわれ」は「あっぱれ」に変化したが、同様に「立てる」「広げる」は強調して「おったてる」「おっぴろげる」などと言う。


また郷里では「塩味が薄いこと」を「甘い」と言い、他県の人や若い人に「この味噌汁、ちょっと甘いよ」などと言うと、「味噌汁が甘い? 誰か砂糖でも入れた?」と訝しがられる。しかし、辞書を見ると「甘い」には「砂糖のような味」のほか「塩気が少ない」という意味も載っており、だからこれは方言ではなく、今ではあまり用いられなくなってしまった使い方と言うべきだろう。


小学生の頃、どう見ても「唐茄子」なのに、級友たちは「カボチャ」と言うので戸惑ったことがあった。きっと「ほうれん草」と「小松菜」のような関係だろうと思っていたが、後年、漱石だか藤村だかを読んでいたら「唐茄子」と出てきて、調べてみると「カボチャの別称、狭義には西洋カボチャでないものを指す」とあった。ちなみに「南瓜(カボチャ)」の語源はカンボジアだそうだ。(黒)