言葉処 其の15「勘違いと誤変換」
「ここではきものを脱いでください」という掲示を見て、「はきもの」を脱がず「きもの」を脱いでしまったという笑い話がある。助詞はなくても通じるから、文字の場合は誤解されることもある。逆に「雪国はつらつ条例」を「雪国はつらいよ条例」と紹介してしまった事件は、「雪国=つらい」という思い込みが助詞「は」を存在させてしまった。映画「男はつらいよ」の知名度も一因かもしれない。
文字では取り違えないが、声に発した場合、品詞と品詞がくっついてしまうこともある。「あ、痛い」と「会いたい」とか、「うん、血が出た」と「うんちが出た」とか。逆に分断される例もある。「パン作った」と「パンツ食った」とか、「ゆで卵」と「ゆでた孫」とか、「俺にはむかう気か」と「俺にハム買う気か」とか。言い間違えることないが、ワープロの場合は誤変換することもあろう。
「内蔵と内臓」、「衛星と衛生」、「確率と確立」、「意外と以外」、「消火と消化」などの同音異義語も誤変換しやすい。ほか、「汚職事件とお食事券」、「『よい週末を』と『よい終末を』」といった例もある。「完璧と完壁」、「渡邊と渡邉」、「己と已と巳」、「載と戴」、「秦と奏」などは、形が似ていて間違えやすい例。「璧」の「玉」は宝玉という意味だから「壁」では意味を成さない。
以前、テレビのテロップを見ていたら「航空機、堕落」と出たことがあった。しかも三回も見た。事故に遭われた方には申しわけないが、人生の目的も夢も失い、「毎日毎日飛んだり降りたり、やってられねえよ」と言って、空港の片隅で自棄になっている飛行機を想像して笑ってしまった。でも、どうしたら「墜落と堕落」を誤変換することができるのだろう。逆に難しいと思うのだが。(黒)



