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社員ブログ

言葉処 その10「絶対全然ありえない」

2007-11-06

「ありえない」は、これから起こることを予想して「起こる・存在する可能性はない」と断じるものだろう。曰く「平行線が交わることはありえない」とか。しかし、最近は、既に起こったことに対して「信じられない」「そんなはずがない」というニュアンスで「ありえないから」のように使われている。大人までもが右にならえだ。


日本語には、この言葉がきたら否定で結ぶことになっている言葉がある。「決して」「いまだに」「ちっとも」「少しも」「必ずしも」「たいして」などがそうだが、「絶対」については「絶対に勝つ」といった言い方も今は不自然でなくなっている。「全然いい」は、昭和の終わりぐらいまでは違和感があったが、ほどなく辞書に載るだろう。


意外なのは「とても」で、今は「とても大きい」という言い方も認められているが、戦前は「とても食えたもんじゃない」のように否定を強める言い方しかなかったそうだ。戦後になると「近頃の若いやつは『とてもいい』なんて言うが」と大人は眉をひそめたが、そう言われた若者たちは後年こう言った。「この頃は『全然いい』なんて言うが」と。


ところが、最近、芥川龍之介の『羅生門』の中に、《下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。》とあるのを発見して驚いた。『羅生門』は大正四年に発表された作品だが、当時「全然」は「完全に」というような意味でも使われていたらしい。となると、最近の「全然いい」は先祖返りなんだろうか!(黒)